決算書内容と銀行評価が違う?と思うときの「採算性分析」
結論を先に申し上げると、
- 時には、財務分析での評価が悪くとも「収益性が良い=金融機関にとって儲かる取引先だから」という理由で融資の審査が通ったり
- 逆に「収益性が悪い=金融機関にとって赤字の取引先だから」という理由で、財務分析上では問題なくとも、融資の審査が通らなかったりすることは、あります。
目次
金融機関から見た、各融資先企業の「採算性」
金融機関の中小企業評価は、主に
1.決算書を基盤とした財務内容分析(定量評価)
2.定量評価で数値化できない、質や人的な評価(定性評価)
の2本建てから構成されています。今後は
3.計画書の履行状況や妥当性への評価(モニタリング評価)
という3本目の柱が立ち上がりましたが、最も大事なものを一つ、ということであれば「定量評価」であることは不変です。今日では、社長だって自分の会社の決算書で、金融機関にどう思われているのかは、ある程度把握できることが一般的になりました。
しかし、時に弊社とご面会される社長の中には、
- 格付けはそこそこ・・だと思うし、金融機関からもそう言われているのに新規の取引や融資には応じてもらえない。その理由も教えてもらえない
- 似たような取引内容の3行と取引をしているが、その中の1行だけ、当社への対応が冷たく、追加担保の要求までされ続けている。なぜだか分からない・・
- 銀行の、言われるままになっているように思うが、それでいいのか、悪いのかが分からない
というお悩みを持っていらっしゃる方がいます。
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格付だけでは納得のできない社長の悩み
財務分析内容と、金融機関からの実際の評価が見合っていない、と思った時には「採算性分析」を行う
先の例において、社長の気持ちを一つにまとめると「自分の会社が、(一部の)金融機関に過小評価されてはいないか?どうして?」という疑問になります。
その際の有力な分析方法として、(金融機関から見た)中小企業の「個社別採算性分析」というものがあります。
あまり表立って出てこない言葉ですが、上記のようなお悩みを解決できることが非常に多いため、金融機関取引をより上手に行うためには避けては通れません。
金融機関も収益組織、という視点
どんな会社・企業にだって、「儲けさせてくれるお客さん」「儲けさせてくれないお客さん」は、存在します。儲けさせてくれるお客さんには当然、長く深いつきあいをお願いしたいですが儲けさせてくれないお客さんに対しては、
- 取引条件を、よりリスクの少ない条件に変更する
- 取引内容を、より収益性の高いものにシフトする
- それらが無理なら、現状以下にならないようにするか、撤退の判断をする
といった対応をすることになります。この考えは金融機関にとっても、同じこと。金融機関だって、利益を出さねばならない、収益組織です。
金融機関は、各融資先に対して採算性を分析していますし、メガバンクともなれば、各担当者が「この中小企業が自分たちにとって収益が出ているか」いつでも把握しています。
銀行の担当者の最も重要な目標予算は「収益金額」です。貸出残高や件数ではありません(付随した目標ではあります)。よって、採算性が悪いと思われていれば、例え格付けが十分であっても
・取引条件を、よりリスクの少ない条件に変更する
→追加担保を要求する、マル保にシフトする、融資期間を短期にする、等
・取引内容を、より収益性の高いものにシフトする
→金利を引上げする、手数料の減免を止める、事務負担のある取引を止める、等
・それらが無理なら、現状以下にならないようにするか、撤退の判断をする
→無担保融資金額を減らす、新規融資を断る、等
といった対応をしようとするのは、企業として当然です。嬉しくはありませんが…。問題は、それが中小企業側にとってはブラックボックスであること。
知らないうちに金融機関のヒモになっていることも?
ブラックボックスの中を知らないが故、起こる問題もあります。それは、金融機関にとって「とても儲けさせてくれる企業」で、目標予算に足りないときは、この会社に頼みこめば断られないだろうと思われること。
実際、結構あるんです。そして、それをあなたの会社が自ら知ることは、本来可能です。概念や手法が、あまり知られていないだけなのです。
金融機関の収益の算出式
金融機関が、自分の融資先から得ている収益をどのように計算しているのか?についてですが、まずは
総収益=貸金収益+手数料収益
に分かれます。これは見ての通りで、貸金(融資)に対しての「金利収益」と振込手数料等を中心にした「手数料収益」に分けられる、ということです。
貸金収益
貸金収益=利息収益-調達コスト-信用コスト-事務コスト
と、算出されます。融資一口ごとに算出します。
利息収益とは
融資の(年間平均)残高から金利(年利)を掛けます。借り手企業にとっては損益計算書上の支払金利でも代用が可能です。
調達コストとは
金融機関の融資のためのお金は、預金で預かったお金を融資に回しているというわけでもなく、銀行間の市場より借りて、中小企業に又貸ししています。金融機関にとってはコストとなるため、その金利負担分を差引きします。概ね、0.15%~0.3%程度です。
信用コストとは
信用コストは格付けによって大きく変動します。金融機関が算出する際には、金融機関が持つ業種別での倒産確率で算出されますが、中小企業側で算出する際には、その企業の格付けにより想定される、金融機関が計上する「貸倒引当率」で代用してもよいでしょう。
正常先ならば0.2%~2%、要注意先ならば4%~15%程度という具合です。ただし、有担保でカバーされている部分や保証協会の保証が付いている部分については「信用コストゼロ」として、残る無担保部分に対して割合を掛けていくとよいでしょう。
事務コストとは
金融機関の、いわば「取扱手数料」「労務費」にあたるものです。あまり大きな差が出る項目ではありませんので省略も可能ですが、私は便宜的に「平均融資金額の1%」として計算することが多いです。
手数料収益
基本的に、手数料収益においては信用コスト等を考えず、計上される手数料がそのまま収益額となります。
利息収益とは
預金の(年間平均)残高×(0.6-預金金利)%が目処です。この0.6%、というのは「金融機関が預かった預金を運用して得る割合」を表し、そこから顧客に支払う預金金利を差し引いた部分、ということになります。
現状では預金金利は、どの預金であっても小さく、また大きく変わりませんので、簡易的に計算する限りは預金金利をゼロとみなして、預金の「(年間平均)残高×0.6%」としても、結論が変わる程の誤差にはならないので、問題ないでしょう。
為替手数料とは
(仕向手数料) 振込件数×振込手数料単価/2
(被仕向手数料)入金件数×振込手数料単価/2
仕向というのは「振込をする方」、被仕向というのは「入金される方」、とお考え下さい。
振込は、それを行う企業にとっては「振込を依頼する金融機関に手数料を支払いしている」ものですが、裏側では金融機関同士で計算し、「仕向金融機関と被仕向金融機関で、手数料を折半しています」よって、振込手数料についてはその2分の1が収益となりますが、入金される側の取引でも、企業から見えないところで金融機関は手数料の半分を受け取っています。
他手数料とは
特に外為取引等では売買手数料やLC取扱手数料等、大きな手数料が発生します。
収益額(採算額)と採算率
以上の計算によって、収益額を算出しますが、もう一点、金融機関の、その企業への「総与信金額」もしくは「総信用金額」と収益額との割合を「採算率」とします。
金融機関によっては、これを社内的に「ROI」「ROA」と呼んだりします。与信金額を投資金額と見立てて、それに対する収益を見る、ということです。
判断の方法
大事なことは以下の三点です。
- 採算率で1%未満の場合、金融機関にとって「儲かっていない」と思われる危険性が高くなります。言うなれば「粗利・営業利益はプラスでも、最終で赤字では」と思われているイメージです。
- 採算率で2%以上の場合、金融機関にとって「便利なお客さん」である可能性がでてきます。必要以上に金融機関が儲かっていないか?ということです。
- 金融機関別に採算率の算出を行った際、特定の金融機関だけが大きく高かったり、低かったりした場合、その会社への金融機関別の違いを説明できるのであれば、それが答えになります。
というように銀行には個社別採算性(総合採算)という概念が存在します。銀行からスムーズに資金調達を行いたい、友好的関係を構築していきたいとお考えの方は、下記バナーの「無料相談」をご利用下さい。資金繰りで困らないような銀行とのつきあい方を一緒に構築しておきましょう!