中小企業等経営強化法とは?
中小企業等経営強化法とは、中小企業に対する国家政策の根幹であり、中小企業と銀行の関係においても大きな変化を及ぼすものです。
中小企業等経営強化法案の内容は、ここ20年間の銀行の中小企業評価手法を根底から変えるものです。
「融資を返せるだけの資産やキャッシュフローがあるか」よりも、「ある程度の金融支援を行えば存続可能なだけの収益性があり、また自らの改善努力を行っていることを認められるのか」に焦点が当たっている上、「改善努力」の認定を行うのが銀行ではなく、各業種を仕切る官庁であるという点。
各官庁(主務大臣)の認定を得た企業に対して、銀行は「政策的に」追っかけで支援を行うことになるわけです。銀行主導から政府主導へ、中小企業救済のスタンスが変わります。今回は、この法が、これまでと最も異なる点をお伝えします。
目次
- 中小企業の救済判断は、銀行ではなくなる?
- 背景にあるものは
- 新しい評価手法「ローカルベンチマーク」
- キーワードは「稼ぐ力」「生産性」
- EBITDA有利子負債倍率
- 債務償還年数のバージョンアップ版?
- 実務上の取扱い
- 営業運転資本回転期間とは
- 粉飾を隠し続けることをもう認めない
- 銀行の本音
- 国の本音、今回は本気か?
- 中小企業等経営強化法案の対象は全ての銀行ではない?
- メガバンクへは個別対応
- 中小企業対応の主役は、地域金融機関
- 中小企業等経営強化法基本方針(案)
- 支援を受けるための条件が業種別に大きく変わる
- 実質査定は貸借対照表だけのものではない
- 過年度発生の含み損の計上
- 役員退職金
- 訴訟費用などの特殊な費用
- どうしても会計上の計上ができない?
- 「生産性」の改善とは
- 背景にあるのは「自社努力による改善」を浮き彫りにすること
- 実務上使える、他の生産性指標
- まとめ
中小企業の救済判断は、銀行ではなくなる?
これまでの、そして現在の中小企業向けの金融政策は結局のところ、「企業の計画を銀行が承認する」ことで実施が可能になるといって過言ではありません。言葉を変えれば、銀行がよしとしない限りは何もできないものばかり。
銀行に認めてもらうためには明日企業が廃業してしまっても融資が安全に返済できるかどうか、が全てに先立ちますから企業の成長性や、将来性にはどうしても評価が得にくいものでした。が、本法はこの問題に国家としてのメスを入れることになります。というのも、本法のスキームは
- 中小企業は、これまでの「経営改善計画」に替わり「経営力向上計画」を作成する
- 経営力向上計画を承認・認定するのは銀行ではなく事業分野別の主務大臣
- 認定を受けた事業者(認定された企業)は、金融や税制上の優遇・支援を受けることができる
という流れになっており、認定そのものに銀行は登場しないのです。また、事業・業種別に「事業分野別指針」が策定されるものとされており、業種別に「経営力向上計画」の要件や財務基準が別々になることが予想されます。
既存のスキームとして、「経営革新計画の承認」があり、ご利用されている企業も多いと思いますが、これは、少なくとも金融支援という意味では形骸化しており(資金調達のみを目的にした経営革新の取得が氾濫しむしろ銀行が嫌がることすらあります。ある意味経営革新をとれば融資が得られることを匂わせるコンサルや専門家にも責任があります)、また新規の設備投資やビジネスモデルの存在が前提となるため誰でも申込ができるとは言えないものとなっています。
今回は、包括的に、各官庁が、「どんな企業に生き残って欲しいのか」を明示し企業がその基準にチャレンジする、という形態になることが大きな特徴です。
背景にあるものは
このスキームはある意味、中小企業の行く末を自然淘汰に任せ気味、もしくは銀行に委ねてきた政府が、政策的に主導権をとろうとしているものと解釈できます。
国としては、以前より銀行が中小企業へ融資しやすい状況をつくっている(つもり)ですが、銀行は積極的な資金投下(融資)に踏み込めてはいません。今回、政策的に「あまりにも従わない銀行は、統合対象にする」ことを背景としつつ、これまでにない強い政策実施をしようとしています。
新しい評価手法「ローカルベンチマーク」
地域企業の経営診断の指標として「ローカルベンチマーク」を活用した制度設計を指示しました。
この目的は、地域の金融機関や支援機関が企業と対話を深め、担保や個人保証に頼らず、生産性向上に努める企業に対し、成長資金を供給するように促すことにあります。
また、企業経営者等と金融機関、支援機関の対話を深める入り口として使われることとされており、金融機関等が独自の視点でより深い対話・理解をすることを認めつつも、入り口=大前提としてローカルベンチマークが利用されることが明示されています。
この、ローカルベンチマークという新たな評価手法においてはこれまでの金融機関の中小企業評価とは異なる切り口での財務指標が採用されています。
キーワードは「稼ぐ力」「生産性」
既に公開されている資料を調査・確認する限り、提示されている財務指標は今のところ6つあります。
- 売上増加率((売上高/前年度売上高)-1)
- 営業利益率(営業利益/売上高)%
- 労働生産性(営業利益/従業員数)
- EBITDA有利子負債倍率((借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費))年
- 営業運転資本回転期間((売上債権+棚卸資産-買入債務)/月商)月
- 自己資本比率(純資産/総資産)%
「EBITDA有利子負債倍率」「営業運転資本回転期間」の二つはこれまでの財務評価では、あまり表に出ることはなかったものですが、これらの意味や意義については、後述に説明させていただきます。
これら6つの指標を見て、どう思われますか?
「当期利益」が1箇所も使われていないですよね。会社が最終的に残す利益ではなく、本業で稼いだ利益に焦点が当たっています。
一過性の特別損益や、本業とは関係のない営業外損益の前、営業利益をもって評価することが、これまでと大きく異なる点の一つです。実務上では、最終的な当期利益は変わらないからといって特別損益を活用してこなかった中小企業は数多くありますが、そればかりでは、今後はわざわざ過小評価されることになりかねないことにご注意下さい。
また、労働生産性については、一般的な財務分析においては元々重要指標でしたが、融資の可否判断においては殆ど採用されることがなかったものです。今回スポットライトがあたることになりますが、このポイントは、企業にとって最大の資産であり、コストでもある「ヒト」が、真に有効な資産として活用されているか、活用できている企業であるかどうかを問うものでしょう。
どの金融機関でも共通の融資の五原則というものがあり、安全性、収益性、流動性、公共性、成長性、の5つとされています。ローカルベンチマークの採用により、収益性については「本業の収益」という側面が強調され、また新たに「生産性」という6つ目の原則が追加される、そのような理解でよいでしょう。
EBITDA有利子負債倍率
中小企業等経営強化法における中小企業評価の要点となるローカルベンチマークという財務評価手法で採用予定の財務指標の内、「EBITDA有利子負債倍率」について解説します。
EBITDA有利子負債倍率の算式は、
((借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費))年
「EBITDA」は、より正確には税引前利益に、特別損益、支払利息、および減価償却費を足した値ですが、簡易的に(営業利益+減価償却)が使われることもあり、この指標において分母となっています。
この指標に近いものとしては、ここしばらくの間金融機関の使用する財務指標として非常に重要であった「債務償還年数」が挙げられます。
※債務償還年数 =(借入金/(当期利益+減価償却費))年
債務償還年数のバージョンアップ版?
EBITDA有利子負債倍率も、債務償還年数も、計りたいことは同じです。「何年で、今ある借入を返済することができるのか」ということ。しかし、EBITDA有利子負債倍率は、
分子が借入金から現預金を引いたもの分母は当期利益ではなく、営業利益である点が、債務償還年数と異なるわけです。極端に考えれば、現預金は借入との相殺が可能ですから、その分を借入から差し引いた残りを返済するべき実質の借入と見ることができるわけですね。
当期利益ではなく営業利益にした点は、それこそ営業外や、一過性の損益を考慮しない、本業の利益から生まれるキャッシュフローにおいて実質の返済するべき借入を何年で返せるのか、という点への着目と言えるでしょう。
ローカルベンチマークのキーワードである「稼ぐ力」が、借入の大きさに対してどれだけあるのかを示す、非常に象徴的な指標です。
実務上の取扱い
債務償還年数は、昔は5年基準であったものが、今日では運用上15年~20年にまで緩和されてはいるものの、金利負担が大きすぎて当期利益が十分に計上できない企業や過去に発生した不良資産を処理すると、特別損失計上しても当期利益が悪化して債務償還年数が長期化してしまうことから
- 債務償還年数という銀行の基準に合わせていると不良資産の処理ができない
- 本業では努力しているが、過去の負債が重たいために債務償還年数が改善できない
というジレンマを抱えています。EBITDA有利子負債倍率は、本業の稼ぐ力に焦点をあてることでこの問題の是正を図るもの、ということです。
銀行は、損益の実態評価をする際に、損益計算書上の数値を別の項目に変更することがあります。例えば、副業の家賃収入を売上でなく、営業外収益に移したり特別損失で挙げた在庫の評価損などを原価に移したり、といったように。
これからの企業は、企業は特別損失に計上したものが真に特別損失であることを、自ら説明することが求められます。無駄に過小評価されてしまうことは、あってはなりません。
営業運転資本回転期間とは
中小企業等経営強化法における中小企業評価の要点となる、ローカルベンチマークという新たな財務評価手法で採用予定の財務指標の内、「営業運転資本回転期間」を採りあげます。
営業運転資本回転期間の算式は、
((売上債権+棚卸資産-買入債務)/月商)月
※売上債権=売掛金+受取手形
※買入債務=買掛金+支払手形
財務に触れたことのある方であれば、この数式が所要運転資金を月商で割って、「運転資金が何ヶ月で一回転するのか」を示す指標であることがお分かりでしょう。これまでの銀行の財務分析においては、間接的には使われていましたが、直接的に指標として採用されてはいないものでした。
この指標は、ローカルベンチマークの重要なポイントである「生産性」にも関わり、労働生産性がヒトに関わる生産性であるならば手許の売上・仕入(のお金)に関わる生産性であるといえ、数字が小さい(月数=期間が短い)ほど、よいということになります。より効率のよい在庫・回収・支払のビジネスモデルを組んでいると高い評価を得ることになるわけです…が、この指標には別の意図が含まれています。
粉飾を隠し続けることをもう認めない
正確な統計はありませんが、現在日本の中小企業の多くは程度の問題はあるとはいっても、決算を「お化粧」、つまりは粉飾していることに間違いはありません。
承継や再生を期に開示をし、改めて整理整頓する企業が増えつつありますが、粉飾の開示によって銀行からどのような対応を受けるのか不安なあまり、何となく放置している企業や、融資を得ないと企業が存続できないのではという恐怖心から粉飾を上乗せする企業は、まだまだ存在しています。
しかし、粉飾によって売上・粗利を積み増ししようとした場合、その大半は売上債権や棚卸資産を過大・架空に計上する手法がとられます。そうなると、この指標の分子が大きくなる
⇒数値が大きくなる=営業運転資本回転期間は長期化・悪化
となります。また、元々存在していた不良資産・架空資産部分は今までよりも悪化(長期化)する・しないには関係ないとはいえ同業他社や世間相場との比較において、異常値との扱いを受けることでしょう。銀行員からの台詞で表現すれば
「当行の平均値では、御社の業種の平均は2.5ヶ月で2年前は似た水準だったのに、最近大きく超過していますが」
「売上が若干減少しても利益が増えているのはいいことですが どうして在庫が増えているのですか?」
「御社の回収条件は月末〆、翌月末現金回収と伺っていますが、どうして会計上の売掛金は月商の3か月分あるのですか?」
といった具合で、指標として明記されたことでこれまで認められてきた粉飾も、今後は許されないものになります。
一昨年とりまとめられた「経営者保証に関するガイドライン」においても、正確な財務数値を開示することが前提となっている等(後から問題が発生した場合、過去に遡って保証緩和措置の取消しが行われます)どの施策においても、粉飾の放置=救済が受けられないという政府の意思を強く感じます。
ただ帳面上の利益を出せばよいというものではなくなり、本質的な事業収益を生み出す企業が国家による支援を受けられる世の中になる、ということなのでしょう。
銀行の本音
かつて金融円滑化法が生まれたとき、よく言われたのは「金融機関のコンサル機能」国は当時、金融機関=銀行や信金・信組、に中小企業の再生可否判断を任せつつ、中小企業向け融資を伸ばしていくことを目指してきましたが、機能しているとは言えません。
銀行の大半は新規融資に対して及び腰であるとともに再生不可企業の最終処理も止めてしまっています。というのも、「中小企業の最終処理」というのは企業にとって多くは破産となりますが、銀行にとっては貸倒の発生であり、会計上の損になるからです。
今わざわざ貸倒するくらいなら、リスケジュールの延長により利息だけ受け取って先送りしておこうという判断が横行しています。
さらに、金融庁より「収益力の弱い銀行は統合対象」とされる圧力を受けているため、わざわざ貸倒損失の確定する最終処理をしたくないのが本音です。
最終処理をしない一方、貸倒が怖いことは変わらないので新規の融資もできなくなっています。従って、銀行は現行のルール、状況の中では最終処理はせず、先送りをするのが現実です。
国の本音、今回は本気か?
中小企業等経営強化法は、ある意味銀行の煮え切らない対応に国が痺れを切らして再生可否判断を銀行にさせてきたこれまでの政策を放棄、政府・各官庁が「中小企業の救済基準」を定めて認定する、つまりは「再生・救済の可否判断は、銀行でなく国が行う」ことの意思表示です。
政策として救済するべき企業を、国が「中小企業等経営強化法」によって認定し、認定を受けた企業に銀行からの支援が受けられるようにする、という国の意思は企業数が減少することが避けられない日本でも価値のある企業は積極的に救済するという政策的に必須のものです。
営業利益がもっとも重要なポイントになることはこれまで触れてきたとおりです。
中小企業等経営強化法案の対象は全ての銀行ではない?
本法案の概略は、これまでお伝えしてきた通りですが、「認定を受けた中小企業に対して、金融機関が金融支援を行う」という、最大の要点に関して金融機関は全ての金融機関を指していません。
「地域金融機関」に対して求められています。地域金融機関という言葉は、元々旧都市銀行を除く地方銀行(第一・第二とも)・信用金庫・信用組合を指しますが、厳密には政府系金融機関も除くため、
現在の三大メガバンクと政府系金融機関は本法案の対象外ということになります。
政府系金融機関については、政府の動きに追従するのが当たり前である一方、元々「民間のメインバンクに合わせた支援を行う」ことが基本スタンスであるため、本法案の直接の対象になっていなくとも、個別に交渉し、結果として法案に則した対応をしていただくことができると予想されますが、メガバンクは、どう動くことになるでしょうか。
メガバンクへは個別対応
本法案は、メガバンクを対象としていないことから、メガバンクは全く協力をしない、ということでしょうか?
そうではないと、私は確信しています。
既に、メガバンクは条件変更先(リスケジュール先)に対する対応も、独自判断を行うことが増えています。財務指標が再生基準未達であっても、再生計画を了解することも他地域金融機関が横並びに支援しようとする企業に対して同じ水準での支援を拒否することも双方あり、時に企業にとっては救いとも、災いともなっています。
国は、メガバンクに対して中小企業向け融資を増やす要求を、数年前より行っていません。純粋に、収益を上げることだけを求めており、メガバンクはその対応として、中小企業向け融資よりも海外投資等の動きを強め続けています。昨今のメガバンクの独自判断の増加は、その表れです。
本法案によっても、メガバンクは「法案で定めがあるから」ではなく、独自に企業を判断して支援の可否を定めることでしょう。
中小企業対応の主役は、地域金融機関
改めて、国としてはメガバンクに対しては国策としての大規模な資金投下を求め国内中小企業への対応は、地域金融機関に任せていきたい、という意向です。本法案は、地域金融機関を動かすためのものと言えます。
かといって、中小企業側から考えたときに、メガバンクとの取引が要らない、ということではありません。
メガバンクに対しては個別に、地域金融機関に対しては新法案に基づいて今後の支援を要請していく、ということです。
実際、弊社のこれまでの取組みにおいても、メガバンクが独自対応をしてくることは多々ありますが本質的な企業の再生・発展に繋がるものである限りはメガバンクの方が、教科書通りではない対応ができるものです(個別の例外はあるにせよ)。単に対象外だからといって、怖れることはありません、再生に足る企業、と認めてもらえばよいのです。
メガバンク、地域金融機関双方と取引がある企業においてはかたや個別に、かたや新法案に基づいた支援を受けられるように、日常の経営改善を行うことになるのでしょう。
企業の自らの努力を証明し、評価を得るという原理原則には、何の違いもありません。違いは違いとして注意はしつつ、本質を外さないように取り組めばよいでしょう。対応の違いに、どうしても苦慮してしまうようであれば、弊社に是非ご一報下さい。
資金繰り・資金調達など財務でお困りの方は「無料相談」をご利用下さい。
中小企業等経営強化法基本方針(案)
1.経営力向上の定義及び内容に関する事項
中小企業の新たな事業活動の促進に関する基本方針における経営力向上は、「経営資源を事業活動において十分効果的に活用すること」とし、具体的には、「事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成」、「財務内容の分析の 結果の活用※」、「商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用」、「経営 能率の向上のための情報システムの構築」等とする。
※ 売上高増加率、営業利益率、一人当たり営業利益、EBITDA有利子負 債倍率、自己資本比率等の指標を活用
2.経営力向上の実施方法に関する事項
計画期間を3年から5年とし、労働生産性を計画認定の判断基準とする。原則、5年間の計画の場合、計画期間である5年後までの労働生産性の目標 伸び率が2%以上とするが、業種・事業規模等を勘案して弾力的に目標を設定することができることとする。
なお、地域の中核的な企業を中心とした取組等のグループによる申請につい ては、グループ全体としての経営指標又は参加者個々の経営指標のいずれでも用いることができることとする。
3.経営力向上の促進に当たって配慮すべき事項
国内の事業基盤の維持のほか、人員削減を目的とした取組を計画認定の対象としない等の雇用への配慮、経営力向上計画の進捗状況を事業者自ら定期的に把握することを推奨、国が経営力向上計画認定や指導助言を行う際の外部専門 家の活用、中小企業の会計に関する基本要領等の活用の推進、計画認定における小規模事業者への配慮等の配慮事項を規定する。
4.事業分野別指針に関する事項
事業分野別指針に定める内容を規定する。
(1)現状認識
市場規模、市場動向等当該事業分野の経営力向上に係る定性的及び定量的な事実及び動向
(2)経営力向上に関する目標
当該事業分野の特性を考慮し、基本方針で 定める指標及び目標とは異なる指標及び目標を定める事が出来ること とする。
(3)経営力向上に関する内容及び実施方法
中小企業等が参考とすべき事 業者の規模等に応じた具体的取組内容及び取り組むべき事項
(4)事業分野別経営力向上推進業務に関する事項
経営力向上に係る取組 を推進するために必要な知見、能力、組織体制等
5.認定経営革新等支援業務について
認定経営革新等支援機関が、経営力向上のための事業の計画に基づく取組を促す。また、認定経営革新等支援機関が、中小企業等と財務・非財務情報の基本事 項について認識の共有を進める。具体的には、ローカルベンチマーク※の活用を想定。
※「ローカルベンチマーク」とは、企業の経営者等や支援機関が、企業の経営 状態を把握し、事業者と認定経営革新等支援機関が、互いに対話を行うため の基本的な枠組みである。
具体的には、六つの財務情報(売上高増加率、営 業利益率、一人当たり営業利益、EBITDA有利子負債倍率、営業運転資 本回転期間、自己資本比率)と経営者、関係者、事業及び内部管理体制の四 つに係る非財務情報から構成される。
支援を受けるための条件が業種別に大きく変わる
認定を行うにあたり、企業の評価ポイント、特に財務指標に関してこれまでと異なる評価基準となるローカルベンチマークが採用されることはお伝えしてきた通りですが、ではローカルベンチマークで重要とされる
1.売上増加率 ((売上高/前年度売上高)-1)
2.営業利益率 (営業利益/売上高)%
3.労働生産性 (営業利益/従業員数)
4.EBITDA有利子負債倍率
((借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費))年
5.営業運転資本回転期間
((売上債権+棚卸資産-買入債務)/月商)月
6.自己資本比率(純資産/総資産)%
の指標は、具体的にはどのくらいの数値であれば良い、とされるのでしょうか。
…残念ながら、まだ分かりません。もちろん、今後弊社調査において判明することがあれば随時お伝えしてまいりますが、今日現在、まだ決まっていないのです。
一方、現時点で分かっていることもあります。それは、「業種別で指標の水準や優先順位が変わること」です。
経営力改善計画の認定にあたっては、中小企業庁の上部組織にあたる、経済産業省(の大臣)が「基本方針」を定めますが、実際の認定を行う各事業分野別の省庁(の大臣、つまり主務大臣)が「事業分野別の指針」を定めた上で、その指針に従って認定を行う、とされているのです。
つまり、事業分野別に、指針が異なることになります。
銀行の財務評価も、業種別の評価基準は異なり、例え同じ財務内容でも格付けや融資姿勢が違ってくることは不動産業や大規模設備を必要とする業種を中心に存在してきましたが、「貸したお金が返ってくるのか」という原則、「貸したお金が何に使われるのか」という目線では変わることがないため、使われる指標そのものが大きく変わることはありませんでした。
私たちコンサルタントの立場で言えば、少々の業種の違いがあっても債権者である銀行が安心できるのかどうか、という見地で企業の状況を判断する、という考え方でいればどの業種であっても同じこと、というわけです。
一方各省庁は、日本の将来予測の中で、どれだけ今存在する企業を残していきたいのか、どんな企業に残って欲しいのかを見据えた条件を出してくるでしょうから、
政策的に、国家的に拡充していきたい業種、さらには海外進出を狙って輸出拡大を狙いたい業種であれば、売上・利益の拡大や社長の営業方針により重点がおかれるでしょうし
市場の縮小は避けられないが、ある程度の質・量をもっていたい業種であれば、より安全性の高い企業が評価されるべきですからそれこそ自己資本比率のような指標に重きが置かれる等々、指標の目標水準のみならず、優先される指標が変わっていくことでしょう。
ルールが複雑になる、と言ってしまえば大変ですが、私としては、より自社の業界の将来を見据え、それに見合った経営を行うことが、より高い評価を得られるようになる、という意味で良いことではないかと考えています。
「こう決算書をつくれば銀行の支援が受けられる」ではなく、「正しく改善努力を続けていけば、国家の支援が受けられる」ようになる、というわけですね。
実質査定は貸借対照表だけのものではない
これまでの財務分析と言えば、結局のところ貸借対照表の左側、資産項目について、各項目を時価でいくらか、会計上適切な計上かどうかを判定して評価を増減させることで、その議論の大半が行われてきました。
例えば、簿価では総資産が3億、純資産が500万円の会社があるとして実態で資産が2,000万円評価減されると実質総資産が2億8,000万円になりますが、そうなると貸借対照表は左右で金額が同じになりますから、合わせて純資産の評価も2,000万円減少し、実質純資産がマイナス1,500円と査定されます。
こうなると、実質債務超過という評価になり、融資を含め、あらゆる意味での財務評価が苦しいものになります。この流れは、随分と知られたものになりました。
元々損益計算書にだって、実質査定はあります。これまでは「最終利益に影響がないならば、特に問題ない」と、あまり気にされることがなかっただけです。
一方、経営強化法や、ローカルベンチマークにおいては営業利益に重点が置かれています。
経営強化法が求める「稼ぐ力」は、本業の「現在から未来の」利益であり、
過去発生した余剰在庫の処理や、固定資産の評価損一時的、特殊な要因による損失自らの努力ではどうしようもない要因による損失
などは、当期利益においてはマイナス要因であっても企業評価上ではマイナスとしてみない余地が生まれていることに、実質損益の意味があります。
極端に言えば、最終利益(当期利益)は同じであっても評価が営業利益を中心に行われるわけですから、あらゆるコストが売上原価なのか販売管理なのか営業外なのか特別なのかの振分けによって、大きく評価が変わる、ということです。
ただ何となく、税理士先生に言われるがまま処理をするのではなく、経営者自らコストの振分けを行い過小評価されることのないよう努めていくことが大事です。
過年度発生の含み損の計上
相場の誤判断や見込み仕入などで、過去に仕入れた在庫が死蔵化し、その損切りを行った場合などです。これまで、多くの企業はその存在を表に出すのを嫌がることが多く、売上原価の中で処理をすることが多かったのですが経営改善を行う処理の一環であるとともに、現在の損益としては向上していることを明快に示す、という意味では、一過性のものであれば今後は特別損失に振り返る等の処理を行うべきです。
役員退職金
役員報酬や退職金についても、金額の明示を怖がる経営者が多いのですが、特に退職金については特別損失での計上を考慮したほうが営業利益の改善に繋がります。
訴訟費用などの特殊な費用
訴訟については、銀行が訴訟の存在自体を評価減にするため、扱いは慎重に行うべきですが、自身に道義上の問題がないのであれば訴訟の存在と経緯・内容を胸を張って説明することで問題としないようにすることは可能です。そうなれば、当然その費用を特別損失に計上可能となります。
概ね、何となく表に出すものが怖い、と経営者が思ってしまい売上原価や販売管理費の中に溶け込ませてしまうコストを特別損失に計上し、営業利益を「現在の」「本業の」利益として評価してもらう、という認識でOKです。過去のものは過去のもの。今はこれだけ改善しているんだから、と言ってしまう方が有利になる、という仕組みです。
どうしても会計上の計上ができない?
どうしても、会計上の処理はできない事情があるけれど、本来の営業利益は別であることを銀行に分かって欲しい場合は?
その場合は、決算書とは別に、「実質の(営業)利益」を説明する資料を自らつくり、銀行に損益の実質査定を依頼することになります。
貸借対照表の実質査定と異なり、損益計算書の実質査定の大半は、企業側からの説明がないと銀行は対応できません。といいますか、気づくことができません。
これは銀行側の責任はありません。企業経営者に説明責任があるものですから。だからこそ、経営者は自社の本当の力を把握して、銀行を説得していく必要があります。
理解はしたけど、自社で適用できるかな?と迷われたなら、お取引している税理士先生とともに弊社宛ご相談下さい。
資金繰り・資金調達など財務でお困りの方は「無料相談」をご利用下さい。
「生産性」の改善とは
同法による中小企業評価の指針である、ローカルベンチマークによれば、生産性に関する指標は
・労働生産性(営業利益/従業員数)
・営業運転資本回転期間((売上債権+棚卸資産-買入債務)/月商)月
の二つが提示されています。労働生産性については、「従業員一人あたりの利益」という人に対する生産性と言えますし、営業運転資本回転期間については、「運転資金の回転期間が短い=資金が効率的に回っている」という形で、手許の当座資産の生産性(効率性)と言うことができるでしょう。
この二つは、これまで直接的に、という意味では銀行の財務評価で登場することが少なかった(今会社を畳んでも貸したお金を回収できるか、という意味ではあまり重要ではない指標)でしたが、「生産性」の改善を基盤に「稼ぐ力」を持つ企業を救済する、という国家の意思という点では確かに妥当な考え方ではないでしょうか。
さて、この背景を確認しましょう。
背景にあるのは「自社努力による改善」を浮き彫りにすること
どうして、人や資産の生産性改善に焦点が当たるのでしょうか?何故かというと…、人や資産は元々会社が持っているものであり、その生産性(率)の改善は、景気や環境の変化の影響を受けにくいものだから、つまり、経営者自身の改善努力が最も浮き彫りになるポイントだから、です。
中小企業は自らコントロールできない外的要因によって売上も利益も大きく変わりますが、理論上、生産性は比較的内的な要因、自らコントロールできるものとされます。
そんな内的要因=生産性を重視することで企業・経営者自らの改善努力を評価しようというのがローカルベンチマークによる生産性評価の背景です。
正しく努力した企業がより評価されやすい、という意味でこれまでより一歩進んだ内容と考えます。
実務上使える、他の生産性指標
生産性の指標は、企業自らが銀行に提示し、経営力向上計画内の重要指標とすることもできます。
これまでも、これからも私がよく使用している指標を二つ、紹介しておきます。
・人件費 / 売上総利益 (%)
いわゆる、簡易的な労働分配率です。業種や売上原価の計上方法にもよりますが、40%~50%程度が適正とされることが大半です。が、単に一般的な数値と比較するだけでなく、過去の実績値や、今後のモデル損益の中での値を踏まえ自社の適正値を定義するとよいでしょう。
・営業利益 / 売上総利益 (%)
粗利の中からどれだけの営業利益が残るか、という意味で経費全体の費用対効果を図るものであり、経費に対する利益の生産性と言えます。人件費以外の経費も大きい企業の場合は、労働分配率だけでなく、こちらの指標も用いるとよいでしょう。
もう表面上の最終利益だけ取り繕うことに意味はありません。真の改善を行い、それをアピールすることが求められています。
まとめ
「中小企業等経営強化法案とは?」のまとめとなります。これまでお伝えしてきたものをベースに企業側がどのように考えるべきなのかまとめておきます。
本業での「実質」の利益が最重要
最終利益も当然大事ですが、一過性だったり企業自身の努力では回避しようのない要因を除いた実質の利益、つまりは実質の営業利益が最も評価される収益数値となります。
時価評価を行う貸借対照表と比べると、損益計算書はそのままの数値で評価されがちですが、当期利益が同じであっても、一つのコストが売上原価なのか、販売管理費なのか、営業外か特別かどの項目に入るかで営業利益などの数値は変動します。
評価する側から言うと、企業の本来の収益力を自らの努力による改善を判定したいのですから、営業利益を重視したいのです。税額が変わらないからといって、安易に検討もしないでコスト計上することは避けなくてはなりません。
また、決算書での損益計算書では売上原価であったとしても本来は特別損失であるべきものは、銀行などにその旨伝えて実質評価において営業利益を増加してもらう、という手法もありです。損益の実質評価とは、そもそもそのためにあるのですから。
生産性の向上がアピールポイントになる
営業利益の改善が問われるとはいえ、必ずしも売上の増加による利益増加だけが求められているわけではありません。
重ね重ね、「自社内での努力による」改善が評価されます。外国為替や元請けの動向、震災などの外部要因に左右されにくい会社での取り組みによる改善として、「生産性」にスポットがあたります。
具体的には、社員一人当たりの(営業)利益の向上資産の売上や利益に対する回転期間の短縮化売上総利益にに対する人件費率の向上等が挙げられます。
財務指標は、これまでと異なるが債務超過の解消は重要
長い間最重要指標であった「債務償還年数」はやや重要度が後退します。融資の完済までの時間が長期化しても、その間企業が倒れないで存続できるのであれば、銀行は金利を得るのだからいいのではないか?という考え方です。しかし、そのためには
企業の存続性が高い
⇒承継がなされること万一倒れた時に、銀行は融資の回収ができる
⇒実質で債務超過ではない、もしくは債務超過だが、近い将来純資産をプラスにする計画をもっていること
この二点が求められることになります。
粉飾に対してはより厳しい対応になるため、対応は慎重に検討しつつ開示を
今後使用される財務指標は、必然的に粉飾を行って利益の積み増しを行うと悪化するものが採用されます。また、粉飾事実を隠したまま救済を受け、後に発覚した場合は過去にさかのぼって救済策が無効・取消になる見込みですので粉飾を行うことのリスクは、より大きくなります。
銀行からの指導より、企業側からの意思表示
銀行はコンサル機能を求められているとはいっても企業経営者の意図や意思、将来像を全て把握するのは無理です。銀行規定通りの返済金額では、将来の設備投資計画や環境の変化は想定できません。が、相手が分からないこと自体は責められません。説明責任は企業側にあり(言われないと気づきようがないのです)自ら自社の将来像を提示し、必要な資金と返済のバランスを提示しなくてはならないのです。
次に来るだろう「廃業支援制度」とセットで企業は自らの「終活」を行うということ
総じて、中小企業等経営強化法は、今後とも存続するべき企業を国家が認定し、政策的に支援する制度といえますが、どうしても見合わない企業に対しては、廃業を支援する制度も含めて検討することになります。
その制度は今年後半から来年にかけて、少しずつ現れてくると予想されますが、経営強化法も合わせて大事なことは、企業経営者が個人同様に、自社に対しても終活を考え、実現化することにあります。
せっかくやってきた会社、残すべきものは最大限よい形で残すことが一番ですし、経営者の最大の考えどころなのでしょう。
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