一番優先される財務指標
純資産が、最も重要
前回、銀行が重視するとされる「債務償還年数」に対する問題を取り上げました。既に最優先される指標ではない、とご認識下さい。では、改めて最も大事な指標を説明します。
それは銀行とより良くつきあっていく、という意味のみならず、全ての企業にとって、経営上最も重要な財務指標とも言えるもの。それは、純資産が「実質で」「適正な」プラスであること、です。特にここでは、貸借対照表上の資産を簿価から時価に置き換えた上での純資産の金額となります。財務指標の中でも良く知られたものですが、その本当の意味を確認しましょう。
純資産の大きい・少ないとは
貸借対照表上の右側、負債は「他人資本」、純資産は「自己資本」とも表現されます。その違いは結局のところ
負債 :社外で用意してもらっているお金で、後で返すもの
純資産:最後まで自分自身に残るお金
この一点に集約されます。純資産が大きい程、いつか社外に払うべきお金が少なく、手元に残せるお金が大きいのですから、会社の安全性は高いのです。純資産がマイナスになれば、概ね現預金にあるお金すら社外から用立てている状態であり、融資等に頼らない限り資金繰りが回らないと言えます。
純資産がマイナスということは
金融機関は「万一にもこの会社が倒れてしまったら、融資したお金が貸倒れになる」ことを懸念します。債務超過という状態は、その企業が清算した際に、全ての資産を売却しても負債をゼロにできないため、尚更です。だからこそ、債務超過の企業に対し、銀行はお金を貸しづらいばかりでなく、資金繰りや経費内容、ひいては経営そのものについても口出しをするようになるものです。ここまでは広く知られた事実ですが、大事なのはここから。
債権者(金融機関)に回収を懸念される、という状況では、
- 担保の追加を要求される
- 経営者引退時に保証人解除されない
- 新規融資が断られる
- 金利の上昇を求められる
- 経営改善への具体的な方策の開示と、その実行が求められる
- 役員報酬等の経費を削減することを求められる
等など、あらゆる意味で取引が不利になります。これは経営者側から考えてみれば
- 個人資産の担保提供が必要になる
- 引退しても保証人が外れない
ばかりか、
- 新規設備投資等をしたくとも、金融機関の了解が要る
- 人件費を増やすことができず、それよりも利益を出して返済をしてくれ、と金融機関に要求される
- 仮に会社を清算するとしても、基本的に借りた金が残る
そもそも経営の自由や権利が剥奪され、責任や義務だけが残ることを意味するのです。
純資産が重要なのは、「経営の自由」のため
「まるで借入の返済をするために経営をしているようだ」と心中を吐露する経営者様のお悩みを何度も聞いてきました。原因は、純資産の不足にあることが大半です。日本の中小企業経営者の多くはオーナー兼社長のため、よくも悪くも全て自分、と言われますが、正確ではありません。十分な純資産あるからこそ、負債の相手先に気をとられず、存分に采配をふるうことができるのです。
銀行側では、計画値で最大10年以内の債務超過解消が基準と規定されています。しかし、単に金融機関の基準に合わせるということではなく、経営者自らの、経営の選択の自由を取り戻すという見地で取り組むのが正しい姿でしょう。
純資産が大きすぎるのも問題?
純資産は大きいほどいい、と言いたいところなのですが、今日税制上は不利になることにも注意が必要です。特に株式を後継者などに譲渡する際、税額が企業の支払能力を超えてしまっている企業も多く、そうなれば対策には数年~10年以上の時間を要します。
一般に銀行では、「自己資本比率で20%以上」であることが優良との基準となりますので、将来的に大きな融資を必要とする企業は、この基準を念頭にコントロールするとよいでしょう。