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赤字事業を損切りできるか?

銀行員から、日常のやり取りの中で、また融資の交渉の中で、「社長、3年前に新たに始めた事業、いまだに赤字ですが、本業の方は利益出ているのですから、やめたらどうですか?」と言われることがあります。

 

本業では利益をしっかり出していて問題ないのに、新しい事業がなかなか軌道に乗らず、赤字を出し続けている会社があります。その新事業が足を引っ張り、会社全体で赤字となっていたり、設備投資や人員投資などで資金が出続けたりしています。

 

そういう状況を銀行から見ると、

 

「なぜ社長は、いまだに新事業にこだわり続けるんだろう。3年やっても芽が出ないのだから、やめて本業に集中したらよいのに。」

 

と思います。重要なのは、まだ赤字である新事業、それが今後、黒字化する見込みがあるのかどうかです。新事業の売上が順調に伸びてきて、もう少しで黒字となるのであれば、事業は続けたらよいでしょう。ただし新事業の売上が伸びてきていること、赤字幅が縮小してきていることを、資料を作って銀行に説明することが必要です。

 

しかしそうでない場合。社長が行わなければならない決断は、損切ることです。

 

例えば株式投資では、買った時の株価が800円、3ヶ月後の現在の株価が600円で、いつまで持ち続けるのか。いつか元の株価に戻るだろうと損切りができないばっかりに、もっと損失を出してしまう株式投資家がいます。

 

例えば競馬では、ずっと負け続けて、その負けを取り返そうとさらに多くの金額を賭け、さらに損失を出してしまうギャンブラーがいます。この時に共通する感情は「負けを取り返そう」という感情です。冷静になれないのです。

 

赤字を出し続ける新事業でも同じです。

 

社長が「絶対、この事業は当たる。」と思って数年前に立ち上げた新事業。それがなかなか芽が出ない。しかし設備投資や人材投資で、今まで○千万円かけた。今、その事業をやめれば全て無駄になってしまう。取り返すまでやり続けよう。と、社長が冷静になれないのです。

 

そしてさらに赤字を出し続けて、会社全体でも赤字が出続け、投資額がさらにふくらみ、銀行からの借入金もさらにふくらんでしまう。

 

銀行も、融資が返済されるように企業には黒字となってほしいですから、新事業をやめるよう社長に言い続ける。しかし社長は、「いつか取り返せるから、もう少し見守っていてくれ。」と、いっこうに話を聞こうとしない。

 

そして、とうとう会社は破綻してしまう。

 

この場合、社長に対しての、銀行からの「新事業に見切りをつけるように。」という忠告は、けっこう的確であったりします。

 

銀行の言うことを聞かない社長は決まって「銀行に何が分かるんだ。経営もしたことないくせに。自分が一番分かっている。」と言います。しかし分かっていないのは社長です。冷静になっていないのです。

 

本業で利益が出ているのであれば、新事業をやめ、それにかけた設備や人員を整理すれば、会社は黒字となります。その中で銀行が運転資金の融資をしてくれずに資金繰りが回らないのであれば、銀行に相談してリスケジュール、つまり融資返済の減額・猶予をしてもらいます。

 

そうなれば、資金繰りが回り出します。近いうちに融資の返済を再開でき、それを銀行が評価して融資を再開してくれるでしょう。

赤字の新事業を行い続ける問題点

なお新事業の問題点は、新事業に社長、もしくは会社全体のエネルギーを費やすことによって、本業にも悪影響が出てくることです。

 

社長が、本業のことは部下に任せきりであまり考えなくなった。社内の営業マンの多くが、売れない新事業の商品を売れと社長から指示を受け、やっぱり売上が上がらない。そして本業を売る時間が少なくなったから本業の売上も低下している。

 

このように新事業にエネルギーを費やすことにより、本業に悪影響を及ぼし、本業が低調になり、会社の業績もさらに降下します。

 

確かに新事業のことを考えるのは楽しいです。社長は、

 

「これが売れたら、自社はどれだけ売上が上がるのだろう。」

 

とニタニタしてしまいます。本業を長年やり続けていると、社長は本業に飽きてしまうのです。そして新事業に手を出します。

 

また二代目・三代目の社長であれば、自分の代になって、先代の代とは違う事業を立ち上げ、先代とは違うところをまわりに見せつけたい、という思いで新事業を立ち上げることが多くあります。

 

新事業が順調に成長し、赤字幅が縮小しもうすぐ黒字になるのであれば、そのままやり続けて問題ないでしょう。

 

しかしいっこうに芽が出ないのであれば・・・。

 

銀行の忠告を聞かず、銀行は見限って融資をしなくなり、赤字を出し続けることによって資金繰りがまわらなくなり、そして行きつく先は倒産です。

 

なお、本業でどれだけの利益があるのか、新事業でどれだけの利益があるのかを社長が知るために、部門別会計を行うことはとても重要なことです。それを行っていないばっかりに、新事業の赤字を本業の黒字で補てんできているだけなのにそれに気が付かない社長は多くいます。

 

「社長、新事業から撤退してください。それでなければうちも引かざるをえません。」という銀行からの忠告、これは冷静になれていない社長に対し、結構、的確であったりします。

 

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