キャッシュフロー経営と銀行の財務評価は矛盾する
キャッシュフロー経営と言えば、現金主義に基づいて「どれだけの現預金を生み出しているか」を重視する経営、とされます。
発生主義に基づく損益の会計処理だけでは、掛取引や償却資産、借入の返済等の資金の流れが読みにくいもの。この結果、損益は十分にプラスと思っていても、資金的に火の車となれば経営としては失敗してしまいます。
キャッシュフロー経営ではそんなことにはなりません。
簡易的には資金繰り表でキャッシュ・フロー状況を見える化できることもあり、中小企業でも資金繰り表活用によるキャッシュ・フローが求められるようになりました。
今や、融資の申込を行うにあたっては資金繰り表を添付資料として提出することは極めて一般的です。
経営者にとっても、損益で黒字が出ていることよりキャッシュフローがプラスで現預金が増加している方が安心です。現預金があればあるほど倒産懸念は遠くなるし、自社判断で投資もできる。この意味では、損益よりもキャッシュフローを重視した経営を行う方がいいに決まっています。
しかし、キャッシュフロー経営に基づき財務改善を行うことと、金融機関からの財務評価を上げることとは一致しない、ということもまた、念頭に置いておく必要があります。
キャッシュフロー経営と金融機関の求める資産構成の違い
金融機関にとって企業の決算書を眺めていく目的というのは、結局のところ
- お金を貸している間、その会社が倒産しないか
- 仮に今、会社を清算したとして貸したお金は返ってくるのか
この二点に尽きます。金融機関はお金を貸し、回収することで成り立っているお仕事ですから、当たり前のことです。が、一定の発展を遂げた企業に対して、融資を伸ばしたい金融機関は「自社ビルの取得」を勧めます。概ね、根拠は
- 購入不動産を抵当権にもらえれば、購入資金を融資する
- 賃貸オフィスにいても家賃を支払うのだから、それが返済資金に変わるだけ
- 返済が進めば他の借入の担保にもできるから、資金調達力が高まる
- 返済が終われば資金繰りはさらに楽になるし、売却すればお金にもなる
このあたりでしょうか。家賃よりも返済金額が少なければ、さしあたりキャッシュフローはプラスかもしれません。しかし、そもそもキャッシュフロー経営においては、直接売上を生まない資産は極力持たないことが鉄則。
また、経営状況が変わってしまった場合に、賃貸ならば自在に事務所を移動できても、自社不動産では使い道がなくなってしまい遊休化してしまう可能性があります。事業に関係のない資産は、資産の回転を悪化させます。さらに下手に売ろうとした時に資産評価が下がっていると、売っても借金の方が残ってしまうことが大きなリスクです。
キャッシュ・フロー経営に基づけば、これらの要因を慎重に慎重に考えて、リスクやデメリットを飲み込める確信がない限りは取り組めるはずがありません。
が、金融機関は、企業側よりもはるかに積極的に取組もうとします。
なぜかというと、「企業に固定資産がある方が、担保にもらえるものがある」「企業に固定資産がある方が、最終的に融資を回収できる」から。融資量は、持っている資産の量にある程度比例しますから、金融機関は企業に対して
「(担保にできる)固定資産を持っていてほしい」のです。
これは、どちらかが一方的に正しい、という問題ではない。スタンスの問題になります。10年以上未来を展望し、将来的に大きく融資を得たいのであれば、ある程度の資産形成は図ってもよいのですが、そうでないのならば流動性=換金性を確保するべきです。
あくまで金融機関の申入れは、金融機関にとってよいものであって、企業にとってもよいかどうかは、企業が自ら判断しなくてはならない、別々のものとお考え下さい。
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