経営者保証ガイドライン【保証債務整理編】
2014年2月に経営者保証に関するガイドラインに適用が開始されました。本ガイドラインは保証契約の見直しや保証債務の整理をする場合等に、適用されることになります。
本日は保証債務の整理をする場合に対象となる企業や得られる効果についてお伝えいたします。
まず対象となる条件ですが、以下の3つ全てを満たす必要があります
- 法人が法的債務整理手続又は準則型私的整理手続の申立てを同時に行うか、係属中若しくは終結していること
- 金融機関において、法人の債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、経済的な合理性が期待されること
- 保証人に破産法に定める免責不許可事由が生じていないこと
1の法的整理手続きとは、再生型でいえば会社更生・民事再生、清算型の手続きには破産・特別清算があります。その次の準則型私的整理手続きとは中小企業再生支援協議会の2次対応案件、事業再生ADR、私的整理ガイドライン、特定調停等、主要債権者のみで公にはせず利害関係の無い中立公正な第三者が関与して整理を進めていく手続きの事を指します。
まず、この1の要件で大きくガイドライン対象となる企業数は減って行きます。
1の中で最も活用が多くなるのが、中小企業再生支援協議会になるでしょうが13年度の中小企業再生支援協議会での再生計画策定件数は、前年度比65%増の2500件強。ただ、その内、暫定リスケ案件は半数と言われていますので1300件程度が2次対応まで進んだ事にはなります。
2に関しては原則、清算バランスの純資産額<経営改善計画における5年以内の返済可能額(エビデンスがはっきりしており実現性の高いものが要求されるでしょう)は最低限必要となります。
3の免責不許可事由については破産法252条1項に記載しており、よほどの悪い事をしていなければ、引っ掛かる事はありませんが、一度、インターネットで検索してみればすぐに出てきますので、確認してみると良いでしょう。
よって3は良いにしても1・2の条件をどの様に満たしていくかが保証債務整理に関して大きなハードルにはなります。
金融機関の検討内容
次に経営者保証ガイドラインを適用する事になる場合、金融機関は以下の事を検討していきます
①保証人の手元に残す資産(残存資産)の範囲
対象債権者としても一定の経済合理性が認められる場合には、破産手続における自由財産に加えて、安定した事業継続等のため、一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅等を残存資産に含めることを検討
②保証債務の弁済計画
対象債権者を対象に保証人が所有する資産(残存資産を除きます)を処分・換価して弁済価値相当額の分割弁済を行うことにより、自宅に住み続けられるようにするなど、資産を処分しないことを検討(弁済条件は、保証人の収入等を勘案)
③保証債務の免除
保証人による開示情報の正確性の表明保証等の要件充足を前提に、残存する保証債務の免除要請について誠実に対応
【信用情報機関への登録】
経営者保証ガイドラインにより保証債務の整理を行った場合、信用情報機関への登録は行いません。
1でいう一定期間の生計費の「生計費」とは、1カ月当たりの「標準的な世帯の必要生計費」として民事執行法施行令で定める「33万円」を参考にして標準的な生計費(33 万円)× 雇用保険の給付期間(90-330 日)としています。給付日数については年齢によって幅があると考えられています
また自宅が店舗を兼ねており資産の分離が困難な場合等、安定した事業継続等のために必要となる「華美でない自宅」は残すなどの対応が必要になり、残存資産に含まれることも考えられます。
また、「華美でない自宅」を換価・処分する代わりに、分割弁済を行い、当分の間、住み続けることも考えられます。
例えば、「華美でない自宅」の処分価格が900万の場合、処分しない代わりに金額を上乗せして、1000万を10年で分割弁済を実施して「華美でない自宅」を守ることも考えれるのです。
3については、通常自己破産した場合は官報に公示され、信用情報登録機関に登録されると再度の借入が制限を受けるなど、再チャレンジが困難になります。
3の内容を織り込む事で官報への公示、信用情報登録機関への登録による信用低下も回避され、保証人の再チャレンジが促進されることが期待されます。
この様に金融機関として経営者保証ガイドラインの対象となった事業者に対しては保証債務整理時に上記1~3を検討していかなければならなくなりました。しかしながら金融機関としては「検討」する必要があるだけで「義務」では無い事は理解しておかねばなりません。
各金融機関は2月より経営者保証ガイドラインの適用をスタートはさせていますが、実際は職員に対して周知徹底して、これから事例を積上げていく段階の為、手探り状態の中で進んでいるというのが実態の様です。今後少しずつ、事例が出てくるでしょうね。
その為、本号の内容も現時点での情報や私の主観も織り交ぜて皆様にお伝えしておりますので、今後具体的事例がどんどん出てくる事によって変化する可能性を含んでいる事をご了承ください。
執筆:奥田雄二