貸付金や仮払金は、なぜ悪い?
金融機関が融資先の財務分析を行うにあたり、貸借対照表上でよく問題になるものとして「貸付金」や「仮払金」の存在があります。
私はかつて、
- 貸付金は、実際に返済できる説明がないならば、資産として認めてはならない
- 仮払金は、出張旅費等の1~2ヶ月分程度以外は基本的に発生し得ないため、(納得のいく説明を経営者より得られない限り)資産として認めてはならない
と教育されていました。企業側でも、この2項目で大きな金額が発生していれば、金融機関より説明を求められるでしょうから、気になるポイントではないでしょうか。
しかし、本質は単に資産として評価できる・できないではありません。企業の管理体制、経営者の資質、金融機関への情報開示姿勢等、ガバナンスが問われる項目なのです。
「社長の経営態度」が問われる
過剰な貸付金・仮払金がどのように考えられるのかというと
1.会社のお金を個人目的で流用しているのでは?
経営者・役員と、その親族向けの貸付・仮払は「会社のお金を、個人で使っている」ことを疑われます。金融機関が行う融資は資金使途が定められていますから、決まった用途以外にその融資金が使われることはそれだけで融資の一括返済要求すら可能です。
典型的なパターンは、
・金融機関が「運転資金として」企業に融資
・融資後、企業が貸付を役員に行う
・貸付を受けた者が、自宅を購入
といったものです。
2.会社の経費を損益で計上せず、資産に計上して誤魔化し(粉飾)している
中小企業でよく発生している粉飾の手口、と思われます。
- 経営者が預金を現金で引き出し、会社の経費として使う
- 本来であれば、その後経費処理をされるはずだが、放置される
- 決算処理を行うタイミングで(2)の処理がないと、現金が過剰に残りますが、だからといって処理をすると赤字になってしまうことに気づく
- 現金の行き場として、「さしあたり」貸付・仮払金に送る(貸付・仮払に送ってしまえば、とりあえず赤字にならない)
こうして貸付金・仮払金が発生していくことを、金融機関は疑います。実態は単なる赤字隠しだからです。
「赤字経費を貸付金・仮払金に移して、隠している」
⇒粉飾している
「経営者が自分の支払を隠している」
⇒経営者の浪費を疑う
等、全くもってプラス評価にはなり得ません。
3.使途が全く分からなくなったお金が貸付や仮払にしわ寄せされている
2に関連して、元々何のために現預金を使ったのか、もう分からないお金が貸付金・仮払金に計上され続けている状態です。
- 先代が何らかの原因で貸付金・仮払金をつくる
- 後継者への承継時に、内容や状況が十分に伝えられない後継者はこの時点では貸借対照表の資産・負債という項目を読み慣れていないためこの問題に気づかない
- 後継者がこの問題に気づいた頃には、既に先代は逝去されてしまい、内容の把握が不可能になってしまう
- 金融機関から質問をされても、後継者は答えようがない
こうして、金融機関は疑い、企業は処理の仕方も分からないという状況が生まれます。このポイントの場合、後継者にどれだけの責任があるのか…?という議論はありますがが、代表取締役として連帯保証のハンコも押してしまっている以上、ない、ということはどうしてもできません。
開示や処理は?
問題を解消するにも迂闊に処理をしにくい企業の場合、どのように処理をしたらよいか悩みどころですが金融機関には開示するが、会計上の処理は行わない等の方法があります。また、開示のタイミングについては基本即時ですが、経営者の代替わりや経営計画策定時が「今後私の手で改めてやっていく」姿勢を前に出す契機として、波風が立ちにくいものです。
肝心なことは
・貸付金・仮払金は金融機関の実態把握においては真っ先に資産評価から控除されている
・貸付金・仮払金の存在は経営者の経営態度が問われる
この二点で、どのみち隠し続けても意味のないものだということです。
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