単に増やすのではなく、コントロールする
売上を上げることばかり考えてしまうと、かえって資金がショートする危険性があることは知られています。
多くは二つのパターン。一つ目は、いわゆる「黒字倒産」と呼ばれるもので、売上増加⇒運転資金増加に資金がついていけなくなった場合。二つ目は、資金ショート懸念があるときに、売上獲得が大幅値引き大量受注⇒短期的には前受金を得る⇒長期的に赤字となります。
昔は売上から考えても問題ありませんでした。
- 日本経済全体が、概ね右肩上がりで成長していた
- 需要は必ずある
- 営業活動を行えば、売上は上げることができる
- 赤字案件がないため、売上を上げることができれば黒字は増える
- 一時的な資金ショートについては、金融機関から融資を得られる
これらの流れによって、資金ショート懸念が少なかったからです。(それでも、黒字倒産は発生しますが)。今は、というと
- 日本経済全体が、長期的に右肩下がり
- 需要よりも供給が常に大きく、値引き要請がつきまとう
- 営業活動を行っても、売上を上げられるとは限らない
- 無理に受注すると、赤字案件になりやすい
- 資金ショートが見込まれても、借りられるとは限らない
全く正反対です。
売上を増やす事自体は企業規模の拡大に繋がり、規模の利益を得られること等から、長い目で見れば利益(率)の改善を生みますがが、その前に資金がショートしてしまうのです。
売上は、上げるというよりは、資金やその他の状況を踏まえながら、コントロールするべきものでしょう。
社長が陥る売上至上主義
売上は伸びているのに資金繰りはいつまでたってもよくならない。
このような状況を、多くの社長は「売上が伸びている状態だから、辛抱していれば そのうち現預金が増えてくるのでは?」と思いがち。
せっかく苦労して売上が増えてきたのだから、わざわざ否定したくないのは、当たり前なこと。しかし、経験上では、この状態が2年続いていれば裏側では状況が悪化していることがほとんどです。
売上をコントロールしていない会社が転落してしまう典型的なパターン
状況の悪化のパターンで、最も典型的な例はこうでしょうか。
- 売上が伸びていることから、さらなる売上の獲得を狙い営業活動に関連する費用を増やす(もしくは減らさない)
- 増加させた費用の投資対効果が気になるため、全社を上げて売上の獲得に注力させる。つまり、ここで無理な売上獲得をする
- 「無理に獲得した」売上分が赤字化する。一方で、売上は増えていることから経費は増加、人員も過剰になる
- この状態をしばらく放置すると、売上の多くの部分が「無理に獲得した」売上になり、全社としての赤字になる
このように進みます。最大の問題は、この中の2.3.のところでなかなか気づくことができないこと。
どうしても、
「せっかくの売上なのに、なぜ利益が足りない?」
⇒「売上がもっとないと、損益分岐に足りない」
⇒「せっかく営業に注力しているのに」
⇒「(営業社員に)おまえたちは、きちんと仕事をしているのか?」
という具合で営業担当社員に矛先が向かってしまいがちです。
しかし、無理に獲得する売上、というのはダンピングが発生しますし、自社の強みから離れた案件も受注にいってしまいます。利益がでないものです。
社員の営業活動内容を見直し質の向上を目指す、それ自体は非常に大切なことではありますが、
“今獲得している顧客が、本当に会社にとって有益なのか”
検証が必要になります。こうなると社員のせいではない。社長の責務です。みすみす赤字になるような仕事をさせてしまい、皆で空回りしないで済むように。
売上は、会社全体の作業量、と思うのがこれからの正解
私としては、売上を「会社全体の作業量」と捉えることをお勧めしています。単に売上が上がっても利益が上がらなければ、儲けが増えていないのに作業だけは増えてしまった、と考えるわけです。
売上は、コントロールできる範囲にすることが基本で、拡大させる際には利益と資金、二つの裏付けを確認しながらでなければ、報われないのです。