債務償還年数の基準が変わっている
金融機関が最も重要視する財務指標が
・「債務償還年数」
・「自己資本比率」(純資産がプラスの場合)
・「債務超過解消年数」(純資産がマイナスの場合)
の3点であることは、広く知られるようになっています。
特に債務償還年数は10年以内であることが優良先・正常先の評価を得るために求められるとされ、経営改善計画作成の際にもこの基準をベースに必要な年間利益を決めることが一般的でした。
しかし、多くの企業は債務償還年数を10年以内に抑えるために大きな利益を計上する必要があり、
過大な利益計画
⇒過大な売上計画や厳しすぎるコスト計画
⇒実現不可能な損益計画
という流れで、つくった側から達成できない計画になってしまいつくった計画が役に立たない企業は数え上げれば切りがありません。ようやく、というわけでもありませんが債務償還年数に対する考え方が変更されつつありますので今回まとめておきます。
債務償還年数の算出
債務償還年数=(総借入/(当期純利益+減価償却))
この指標が10以下であれば、理論上は「キャッシュフローで現在の借入を10年以内に返済できる」ことになるため、返済能力が十分ある、だからOK、という判断をされることになります。
10年以内にどうしてもできない場合には、借入をキャッシュフローだけで返済する能力が足りない、と見なされ固定資産の売却等、財務施策での借入圧縮を検討しなくてはならなくなる、というのが一般的な構図です。
単純に計算するだけではない、金融機関の見方
しかし、以下の点に注意して下さい。
- 金融機関では、新たな融資をする稟議の総借入算出時には、直近の決算書(試算表)上の総借入に、その稟議の融資金額を加算することが一般的です。「借りた結果、債務償還年数が何年になるのか」と考えるためです。
- 同じく、当期利益+減価償却(≒キャッシュフロー)の採用数値については、直近決算時の数値だけでなく、過去3期の平均値等も使用して低い方の数値を採用することがあります。直近決算時に数値がよくなったから大丈夫、ということではないのです。
緩和内容
以前より本当はこうだ、しかし勘違いされているというものも合わせてまとめます。
- これまでは、10年以内であることが前提でしたが数年前より若干緩和され、現在では20年程度まで許容範囲です。ホテル等、大規模設備が必要な業種によっては30年程度迄容認される可能性もあります。(弊社取組み上では、40年でOKになった例もあります)
- 債務償還年数算出時の「総借入」から、以下の数値を差引くことができます
1.経常運転資金
経常運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)
企業が売上・仕入を続けていく限りは、経常運転資金もまた半永久的に発生し続けるため、
企業が存続し続ける限り、返して借りてを続けるもの
⇒「借り続けてよい」
⇒「キャッシュフローで返済をしなくてもよい」
と考えることができるわけです。従って、債務償還年数算出上の借入から、経常運転資金分はは差引してよい、となるのです。
固定預金(個人含む)
いざとなれば、借入の返済に使うこともできるという見地で、担保に出していなくとも差引できます。その代わり、適用すると法的拘束力はなくとも、信義則として解約は困難になります。
現金化可能資産(個人含む)
考え方は固定預金と同じですが、同様に返済目的以外での 現金化はできなくなります。
適用上の注意
上記の差引は、あくまで金融機関側の了解あってこその対応ではありますが、基本的には該当するものがあるのならば交渉して差引を行うべきです。実現不可能な利益目標の計画をつくるよりは、よほど現実的なものだからです。
注意点は二つ。
- このロジックは、金融機関の「担当者」には理解されないことも多いため、しっかり文書で説明し、上層部や審査部に伝えて交渉するべきです。
- 粉飾等の決算操作を行っている場合、売上債権が実態より大きくなることから所要運転資金は過剰に大きくなりがちです。結果、修正後の債務償還年数が不自然に改善されますが、粉飾からの虚偽申告となりますので該当する企業の場合は、慎重に取り扱いを考えなければなりません。(それ以前に粉飾は開示するべきですが)