銀行はどのように融通手形を見分けるか
銀行は手形割引を行う時、それが融通手形でないかどうかを見分けます。
融通手形であれば銀行は手形を割引しません。銀行は、商行為に基づく手形を、それを受け取った企業が早期に現金化できるように手形割引を行うものであり、お金を銀行から引き出すことだけが目的である融通手形を割り引くことはしません。
銀行からお金を借りたい企業が、なかなか借りられず、知人の会社に融通手形を振り出してもらってそれを割引する、これが融通手形が振り出される背景です。
つい知人の企業を助けてやろうと、融通手形を振り出してしまう。
融通手形の場合、一回振り出すと、その後はどんどんふくらんでいってしまうものです。なぜなら、その知人の会社は赤字であり、それを穴埋めするために融通手形を割引することで資金調達をしようとするものだからです。
赤字を補てんするために融通手形を知人の会社から振り出してもらい、それを割引することによって資金を調達し、それを手形決済日の前に返済することができずまた融通手形を振り出してもらい・・・このような悪循環が起こってしまいます。
はじめは、知人の会社を助けてやろうと300万円だけ振り出したのが、その3年後には1億円まで膨らんでしまっていた、というようなことが起こるのが、融通手形のこわいところです。
以前、紙工製品卸売業の会社が、私の会社に相談に来られました。
年商5億円のその会社は、知人の会社に頼まれ、融通手形をつい振り出してしまいました。そして3年後、支払手形の残高は1.5億円までふくらんでしまいました。手形のこわいところは、それが支払期日に決済できなかったら、不渡りになることです。
1回でも不渡りになると、不渡報告に掲載され、他の銀行にも知れ渡ることとなり、要警戒企業となります。
6ヶ月以内に2回不渡りとなると、全ての銀行で当座預金が使えなくなり、融資も受けられなくなります。これは銀行取引停止処分と言います。銀行取引停止処分をきっかけに、倒産してしまう企業は多いものです。
借入金の延滞や買掛金の未払いであれば、銀行や買掛先と交渉していけばよいのですが、支払手形の不渡りは決定的なダメージとなります。
そのため、融通手形により支払手形の金額がふくらんでしまった企業は、とても厳しい状況に追い込まれることになります。また、そういう企業は、得てして業況は問題ない企業が多いものです。
ついつい知人の経営者から頼まれて、融通手形を振り出してあげた、それが自分の会社を苦しめることになります。当座預金を持ち、銀行から手形帳をもらい、手形を振り出すことができる企業は、十分に気をつけてください。
また手形の振出しを経理部長などに任せている企業。社長の知らないところで、経理部長が融通手形を振り出しているかもしれません。実際にそのような会社から相談を受けたこともあります。
さらに経理部長が、融通手形を振り出していた相手から、割り引いて得た金額の何割かを謝礼としてこっそりともらっている場合もあります。経理部長などに手形の振出しを任せている会社も十分、注意してください。
手形や資金繰りに関して不安のある方はお問合せ下さい。
銀行は融通手形を割引しない
銀行は当然、融通手形を割り引くことはしません。
ただ、割引に持ち込まれた手形が、商行為に基づく正当な手形なのか、それとも融通手形なのか、見分けることは銀行にとって、なかなか難しいのものです。私は銀行員時代、融資係の時に、融通手形の見分け方を徹底的に上司からたたきこまれたものです。
プロである銀行員は、次のように、融通手形を見分けます。
1.端数のない手形
「5,000,000円」「10,000,000円」のように、端数のない手形。あたかも銀行からお金を引き出すために振り出された融通手形のように見えます。
2.売上規模に比べて金額が大きい手形
例えば、月商1,000万円の会社が、1枚で800万円の手形を振り出す。もしくは月商2,000万円の会社が、2,500万円の手形を持っていて割り引こうとする。不自然です。
3.商流の流れが不自然な手形・業種的につながりがない手形
例えば製造業で、材料を仕入れる場合、製造業から材料の卸売会社へ手形を振り出すことになります。逆に製造業が、材料の卸売会社から振り出された手形を割引するのは不自然です。また業種的に、なぜ取引があるのだろうという手形、例えば衣類小売店の手形を建材卸売業が割り引こうとする場合、融通手形が疑われます。
4.振出人の記名判が新しい手形
手形を振り出す場合、振出人欄に記名判(住所・社名・代表者名が書かれたもの)を押し、印鑑を押します。銀行は手形がまわってきたら、あらかじめ届けられた印鑑届と、印影を照合します。新しく設立された会社は別として、通常の会社が記名判を作り変えることはなかなかありません。
手形帳と印鑑が何者かに持ち出され、記名判がない場合、法人の住所・社名・代表者名が手書きで書かれると不自然なため、記名判を新しく作って押すことを考えるでしょう。このように不正で手形が振り出された場合を想定して、銀行はチェックします。
5.振出人の住所と支払銀行の支払地が離れている手形・メインバンクでない銀行の手形
融通手形を振り出す企業は、銀行に不正を分かられたくないという気持ちが働き、自社の住所とは遠く離れた銀行の支店で手形を振り出すことが可能であれば、そうしてしまうものです。またメインバンクでない銀行の手形も、メインバンクに不正を分かられたくないという気持ちでそうなったのかもしれません。
6.振出日や支払期日が手形振出し企業のいつもの場合と異なる
例えばいつも月末日が支払期日の企業の手形が、20日が支払期日であると、不自然となります。融通手形の振出し相手のつごうにより、支払期日を変えたということが疑われます。
以上、銀行はどのように融通手形を見分けるか、お伝えしました。
手形を振り出すことができる会社は、知人の会社を助けようと、融通手形を振り出してはいけません。資金繰りが厳しい会社の方も、手形を振り出すことができる知人の会社を頼ってはなりません。
また銀行は、融通手形に手を出している(振り出す方もそれを割り引く方も)ことが分かったら、その企業を要警戒することになります。
融通手形、これは銀行にとって大問題なのです。融通手形はやらないようにしてください。
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