あなたは、銭の花を咲かせることのできる経営者か
〈銭の花の色は清らかに白い。だが蕾(つぼみ)は血のにじんだように赤くその香りは汗の匂いがする。〉
今から40年前に日本中でブームを呼んだ「細うで繁盛記」のあまりにも有名なナレーションである。
主人公の加代が、小姑たちのいじめにあいながらも嫁ぎ先の倒産しかけている旅館を忍耐と努力で再生させていく様子が日本国民の共感を得たのであろう。敗戦国の日本がその真面目な気質で努力を続け、ついには大阪万博開催で世界にその成功をアピールするまでに成長させることができた。当時の日本国民と重ね合わせての共感だったのかもしれない。
この時代から〈銭の花〉つまり現預金は様々な意味合いを持つものとして表されている。財やサービスとの交換機能だけでなく、安心、成功、そして権力の象徴にもなる。場合によっては悪への誘発剤になることも少なからず、である。
私は経営者の前で
〈経営者にとって、銭ぐりについての心労は筆舌に尽くしがたし〉
ということを常に忘れないようにしている。
残念ながら世の経営者で自殺に追い込まれた多くのケースでは、その時期は不渡りや倒産をしてからではなく、そうなる前が多いと聞いたことがある。不渡りや倒産をすることへの不安に疲れ果ててのことなのだろう。
経営者にとっての銭ぐりは時代を超えて大きな問題なのである。では、いくらの現預金があれば経営者は安心するのであろうか。ここに根拠となる資料がある。日銀短観による日本企業の手元流動性比率である。
手元流動性比率とは、現預金残高(短期所有有価証券含む)が、月商の何か月分あるかを表したものである。
<手元流動性比率>(2011年9月末)
全規模合計 1.39か月
大企業 1.14か月
中堅企業 1.23か月
中小企業 2.09か月 である。
中小企業が大企業より多くの現預金を保有するのは経営内容が良好だからではない。大企業に比べて、金融機関等からの調達がすぐにはできないことを知っているからである。
健全な経営のためには、少なくとも月商2か月分の現預金残高を維持できるように目標を掲げて経営者は日々努力することが大事である。銀行等への交渉もこのような客観的な根拠を提出すれば協力を得られることが多いのでつけ加えておく。
ただ最後にお願いしたいことは、現預金をつくる方法として決して安易な方法には流れないようにしていただきたい。「細うで繁盛期」が流行ってから20年後、銀行融資で現預金を膨らませ続けた日本経済がバブル崩壊を迎えることとなったことを決して忘れてはいけない。