ABL融資(動産・債権担保融資)の拡充に向けて、中小企業も準備をはじめよう
※ABL(Asset Based Lending:動産・債権担保融資)
9月23日のニッキン紙上で、日本銀行が5,000億円の貸付枠を新設し、メガバンクがABL融資(動産や債権を担保とした融資)の取組を強めるという報道がなされています。
これまでの決算書評価を前提とした融資のあり方に限界が生じ、貸出金額が必要以上に減少し続けていることに対しての取組が始まったと言えます。今回は、現在の融資状況とその限界を確認しつつ、ABL融資へ向けた準備について、お伝えします。
やっぱり貸し渋り(貸し剥し)は、常態化している
中小企業白書より、金融機関別中小企業向け貸出残高の推移を確認してみますと、
1998年 約340兆円 (貸し渋りという言葉が一般化した年)
2001年 約300兆円 (今から10年前)
2006年 約260兆円 (今から5年前)
2010年 約240兆円 (震災前)
この通り、10数年で3割程度、100兆円という凄まじいペースで貸出、つまり融資の残高は減少しています。
ちょうどこの頃より、銀行は、BIS基準という自己資本比率の規制により国際取引を行う金融機関であれば、自己資本比率8%以上国内取引のみの金融機関であれば、自己資本比率4%以上であることが必須となったため、銀行は、融資≒貸出金≒資産を増やすことが、かえって自分の自己資本比率を下げてしまうという矛盾を抱えてしまいました。
しかし、それにしても減少の仕方は凄まじい。これ程の減少を生んでいるのは、結局のところ「既存の融資手法の限界」と考えてよいでしょう。
銀行にとって、現在の融資は
銀行にとっては金利が安すぎる?
借りている側にとっては高い金利なのですが、銀行にとっては安いという状況です。なにしろ、銀行にとっては年間の金利が3%であるのなら、1年で3%の会社が倒産してしまえば、それだけで赤字。しかも、これは通常の事業法人でいうところの「粗利益」であってそこから全てのコストを引いていかなければならないのです。
担保が担保として、機能していない?
今日の融資手法にとっては、不動産を担保にとることが多いでしょう。しかし、不動産業界のような、不動産そのものでお仕事をされている方を除くと担保が会社の事業や経営と関係がない、ことが多いものです。一番わかりやすい例が、「社長の自宅を、会社の借入の担保にする」こと。社長の個人としての住居は、会社の借入と本来関係がありません。
借りたお金は返さなくてはならないですが、会社の事業と無関係なものを担保に出したところで、万一の時にそれを資金化できるかどうかは別の問題です。会社の事業と無関係であるからこそ、逆に資金化できない事情も別に存在するからです。例えば、「先祖伝来の土地」「子供が大学を出るまでは、今の家で」とか。
さらに、不動産は売れるかどうか、いくらで売れるか等決着がでるまでに時間とコストがかかります。
担保として差し出す側には「借りる理由と関係ないものまで、担保にする」というリスクがある一方で、担保を持つ側にも「担保として資金化するのに手間と面倒がかかる」ことであまり有効とはいえないことが、はっきりしてきたのです。
ABL(動産や債権を担保とした融資)の特徴
ABLは、これらの既存の融資手法の問題点に対応しているものということができ、今後の融資の一手法として確立されるべきものです。通常の融資よりも、手形の割引に近いもので、手形の代わりが、「売掛金そのもの」と考えればわかりやすいです。
・売掛債権、特に売掛金を担保とするため、「事業に直接関係している」ものだけで融資を考えられます。
借り手にとっては、「実際の仕事があれば、仕入れ資金の立替に利用できるまた、決算書の貸借対照表や損益計算書のみで融資可否を判断される余地が少ないので、現在融資を得ることが困難な会社であっても資金調達の可能性が広がる
貸し手にとっては、売掛債権を抑えることで、担保保全ができる(但し、事務手続き上は煩雑であることが課題)
担保・保全が確保されれば、ある程度金利も抑えることが見込まれますし、将来的に一般化して事務手続き等も確立されればより使い勝手がよくなっていくことでしょう。
ABLの利用のために必要なもの
将来、ABL利用をお考えの方は
- 売掛金台帳
- 各売掛先の〆(締め)
- 支払条件
- 資金繰り表(特に、現在抱えるお仕事についての回収・支払については将来にわたって反映させる)
の整備を始めましょう。約束手形を使わないABLは、これら資料を月次で提出し、預金口座の実際の入出金の動き等で検証・確認することが審査の一部であり、また融資管理としても必要なものになるからです。毎月、月初に、前月末のデータを元に更新されるような体制が必要です。
逆にいえば、これができればABLの実務に対応できます。
世の中の変化からすればまだまだですが、金融の世界でも少しずつ新しい流れが発生しつつあります。乗り遅れることのないように、出来ることからはじめましょう。
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