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銀行からみた融資先の「総合採算」

銀行にとって融資の審査を行う際に、最も重要視するものと言えば当然「決算書」です。他、試算表や資金繰り表、今後の損益計画や現在の受注明細・借入明細といったあたりが補足資料として使われ、近年では経営(改善)計画書もまた、積極的に使用されるようになりました。

 

これらをベースとして「定量評価」が、また普段の担当者とのコミュニケーション等も含めて「定性評価」が、その企業の評価として定められますが、もうひとつ、銀行から見て重要であり、時に融資の可否が左右される重要な項目があります。

 

それは、「採算性」です。

 

一般的な事業法人にとっても、採算性≒利益率・利益額は当然大事なものですが、銀行だって法人ですから、採算は上げなくては、少なくともわざわざ赤字取引をするわけにはいきません。その中で、「現在の採算性を維持するために」「これによって、採算性が大きく向上するから」という理由が決め手となり、融資がでる、通常では否決されるような案件が承認される、ということが起こり得ます。

 

逆に言えば、銀行の採算性をこちらが認識し、それに合わせることで条件自体をこちらにとって有利なものに出来る可能性もある、ということです。今回は、銀行の採算性について、概要を説明をしていこうと思います。

 

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銀行にとっての収益の算出は

銀行員の融資担当者は、様々の目標を持っています。一番分かりやすいものだと

 

  • 貸金残高
  • (定期)預金残高
  • 新規融資法人件数

 

といったあたり、これは実際に「3月末に○○以上の残高を頂けませんか」と依頼されたことのある方も多いのではないでしょうか。もちろん、この目標がなくなったわけではありませんが、近年ではメガバンクを中心に、「担当する全融資先の合計収益」が、全ての目標の基盤となることが多くなっています。

 

まずは、収益の構造を説明します。収益は主に、利息(融資・預金の利息)による収益と手数料収益に分かれます。

利息による収益

融資による収益額=貸金の利子収入-調達コスト-信用コスト-事務コスト

 

により算出されます。信用コストは、格付けにより変わります。もし、皆様の中で「御社の格付けが下がってしまいましたので、金利を上げさせて下さい」と言われたことの有る方、それは、この信用コストが上がり、採算が合わない(と銀行は思っている)という意味です。

 

緊急保証制度や、預金担保の場合は、格付けと無関係に信用コストはゼロ。銀行員がやりたがるような仕組みになっているわけです。預金の利子は、信用コストは関係ありませんが、

 

預金による収益額=預金の運用益-顧客への支払利息

 

となります。すると、このようなことが起こります。現在は預金の金利も小さいため、大きな差はでないとはいえ、真に収益に積極的な担当者は「どうせ預金を置いておくのならば、普通預金ではなく、当座預金にしませんか。金利の差は気にする程ではないし、同じことですよ」当座預金は、金利がゼロです。しかし、銀行にとって、当座預金と普通預金の「運用益は全く同じ」です。

 

どういうことかと言いますと「同じ金額を普通預金から当座預金に移せば、普通預金の金利分、銀行(担当者)の収益が上がる」のです。上記の式でいうと、「顧客への支払利息」が当座預金なら0なので、同じ金額ならば当座預金においてもらった方が、銀行の収益は上がるのです。

 

手数料の収益の場合は、信用コストは関係ありません。格付けに関わらず金額が計上されます。

 

一番メジャーなものは為替手数料(主に振込手数料)ですが、利用者は振込手数料を「振込を実行する」銀行に支払いますが、実際には「振込を受け取る」銀行との折半です。銀行間でシステム的に計算されており、別途決済しているのです。つまり、「入金口座を特定の銀行に集中する」というのは直接的に収益になる、ということです。

 

外国為替取引は、ある意味銀行にとって、融資よりも収益性が高いものです。円から米ドルに両替するだけで、規定料金では1ドル毎に1円の収益がでるのですから。

 

以上は一例ですが、これによって何ができるのか?例えば、

 

  • 金利引き上げの要請に対して、他行取扱分の手数料収益の持ち込みにより総合採算性を上げることで、それを回避する
  • 新規融資の実行や金利引き下げを狙い、外国為替の取引を持ち込む
  • 預金残高の積み上げの依頼に対して、預金の普通→当座への振替で対応する

 

ような動きが可能になります。

※直接的なバーター取引そのものは、やってはいけません。しかし、一方的な強要ではない状態であれば、ビジネスとしてよりよい条件を出してくれた取引先に、より持ち込みをするのは、当然のことです。

 

どの銀行に、どの項目で、いくらの収益を与えているのかそれに見合った待遇を受けているのかを考えることで正しい銀行の選択ができるようになります。

 

「うちは無担保で融資しているんだから」

「うちはメインではないから」

 

と銀行に言われて、それにつられるのではなく、

 

「御行にはこれだけの収益を、何年にもわたって渡している」

「弊社が銀行に渡している収益額では、御行はダントツです」

 

と言えれば、イヤミではなく、別の観点を主張できる、ということです。是非、一度取り組まれて下さい。

 

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この記事の著者

  • 今野 洋之

    1998年さくら銀行(現三井住友銀行)入行。6年間で一般的な融資から市場取引、デリバティブ等広範な金融商品を多数取扱う。その後、企業側での財務経理責任者としてM&Aを実施、フリーとしての活動を経て2008年に当社入社。 相談・面談件数は全国で1100件以上、メルマガや雑誌等の記事執筆からメディアからの取材対応も多数。 一般的な金融取引の見直し、借入の無保証化、銀行取引の見直しによるコスト削減を一企業で年間8百万円以上達成。 粉飾開示と同時の返済条件変更依頼、条件変更中の新規融資実行も多数実施し、変則的な条件変更(一部金融機関のみの条件変更)の実行や、事業譲渡による再生資金の調達、事業を整理する企業の上記を全て、法制度・コンプライアンスの抵触なしに履行。

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