為替デリバティブに対する銀行の考え方
急展直下の為替差損における為替デリバティブ問題の対応
金融機関との間で契約した為替デリバティブが、円高持続の中で中小企業にとって重しとなり、今般、メガバンクが特例措置を検討している報道があったのは、本メルマガでご案内したとおりです。
本件、昨年来の円高により該当する中小企業が為替差損の損失を被り続け、年末の国会でも取り上げられたものです。その際、例によって、まず全国の中小企業のうち、どのくらいの数の中小企業が痛手を被っているのか半年程度かけて調査すると金融大臣が答弁していました。
それが、新聞記事一面において、予想外に早くメガバンクの対応が報じられました。報道直後において、金融機関の現場まで必ずしも詳細が伝わっていなかった趣があります。自発的な対応というより、天の声と言えるかもしれません。
為替デリバティブにおける中小企業に共通的な問題
直接間接に見聞きする限り、為替デリバティブ企業で損失を被っている企業は、
- 比較的年商の多い中小企業(年商10~20億円程度)で、
- 過去または現在において貿易取引があり、
- 本業の業績が好調の企業
に多いと見られます。たいていは複数行との間で契約しており、“よくわからないまま”契約したと言い切るには不利とも言える状況に置かれている場合が多いとも見られます。
中小企業の中には、うちは契約していないし、関係ないと思われる企業もあるかもしれません。
しかし、このいわゆる為替デリバティブ問題を通じて金融機関の企業に接する考え方を理解しておくのは有効です。先の対応は、本業が黒字だが為替デリバティブで損失を被った企業に中途解約の手数料分を追加融資し、中途解約して以後の損失発生を防ぐ、満期が近い契約については少額の手数料で中途解約する等です。
為替デリバティブにおける金融機関の基本的考え方
金融機関が企業格付けに応じた対応をするのはご存じのとおりですが、
- リスケジュールの有無にかかわらず、本業が黒字、すなわち、金融費用(返済元本及び/または、支払利息)を支払った後の経常収支が安定的に黒字である企業なのかどうかが、金融機関が支援をするかどうかの決定的な判断基準になるということ
- 本業による収支と金融商品による収支は峻別して考慮するということ
- 金融商品導入の判断は企業にあるから、そのリスク負担は企業にあり、金融機関が負担をできないということ、譲れないということ
これらが、金融機関の考え方として端々に出てきます。つまりは、「自己責任の原則」が基本的な考え方ということです。支援対応があったといっても、金融機関はリスクを負担しているわけではありません。
追加の融資をしてもらっても後年の返済負担が重くなるわけであり、本業が黒字であってもその融資金額によっては、ただちにリスケジュールをかけないといけないかもしれません。
楽観視できない今後
金融商品をめぐっては過去にもいろいろありました。デリバティブに限っても為替ばかりではありません。
金利のデリバティブもあります。天候・保険もあります。外貨建て保険商品が企業・団体に大量に販売されたとみられるのが、3年前の年末にかけてです。
現在の為替相場で推移する場合、本年3月末以降、こちらの為替差損が社会的な火種になりかねないとみることもできます。万が一そうなったときに、金融機関の側に企業支援の資本余力がどこまであるかとなると、あまり楽観視はできないものと考えられます。
銀行との折衝にあたって
企業としては、今後に備えて、
- 経常収支の安定的黒字化を図ることを基本に不断の改善努力をしつつ、
- メガバンクと地銀・信金とは対応が異なることを念頭に置き、
- 損失が累積するような事態では粘り強く金融機関と話し合いを持つ一方で、格下げ(金利引上げ)やサービサーへの融資債権譲渡等も想定しておくことが肝要となります。
なおその際、複数行と契約があるなら、相談する銀行の順番というのも大事です。メイン銀行ないし、メイン的銀行に第一に相談するのがベターです。また、メガバンクを優先するのがよいと考えられます。
なぜなら、今回の対応はメガバンクに限るという建前というかニュアンスが現場では感じられるからです。
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