為替デリバティブの損失確定と、その解約資金の借入について
為替デリバティブで多くの中小企業が損失
1月19日に、「為替デリバティブ:多額損失の中小企業メガバンクが融資」というニュースが出ました。
ニュースの内容は、
「為替の変動リスクを防ぐための「為替デリバティブ(金融派生商品)」を銀行から購入した中小企業が、想定を上回る円高の進行で損失を抱えて資金繰りが悪化している問題を受け、メガバンクが支援のための融資を本格化させている。損失の影響で倒産する企業が増えていることから、金融庁が実態調査に合わせて各行に対応を要請した。」
というものです。弊社エクステンドのお客様の中には、為替デリバティブを利用しておられる会社が少なくありません。特に、輸出入を行っている会社や、製造業者で海外から原料を輸入している会社などに為替デリバティブを行っているケースが多く見られます。
中には、自社の事業と何ら関係がないにもかかわらず為替デリバティブを行っている会社もまれに見受けられます。
為替デリバティブとは、ドルやユーロといった特定の外国通貨を、将来の一定の時期に一定の価格で受け渡すことを現時点において確定させる相対取引のことです。
為替相場は常に変動しますが、為替デリバティブを行うことによって将来の為替変動リスクに影響されず、一定のコストで外貨を購入することが可能になります。
このため、為替デリバティブは多くの場合、比較的円安の時期にドル等を安く買うことを目指して行われました。なお、2000年12月のドル・円為替レートは114円程度、2005年12月の同レートは120円程度です。
しかし、ご周知の通り、2008年頃より円高基調が始まり、同年には1ドル100円の水準を突破し、持続的に円高が加速し、最近では80円台まで円高が進みました。
このため、為替デリバティブを利用していた会社の多くが、多額の為替差損に苦しむ事態となりました。
為替デリバティブの影響で倒産してしまわないために
私が担当させていただいている顧問先の中にも、この為替差損により経営が大幅に悪化していた会社があります。
その会社は、ある産業基礎素材のメーカーなのですが、十年ほど前に取引銀行のすすめによって為替デリバティブを利用し始めました。当初は比較的円安基調が続いていたため、同社は安定的に安価にドルを購入することができました。
しかし、最近の急激な円高により、同社は月次で一千万円程度の為替差損を被るようになったのです。為替取引そのものは現金で決済しますので、差損分の一千万円が同社の銀行口座から毎月なくなってゆくのです。
年商5億円規模の会社にとっては、ダメージは甚大です。
弊社がこの会社の経営支援に関与させていただいた際、真っ先に目についたのがこの巨額の為替差損でした。同社のキャッシュフローを見るに、このまま放置しておけば一年程度で同社の資金繰りが破綻することは火を見るより明らかでした。
そこで弊社は同社の取引銀行に相談し、同社のすべての為替デリバティブ取引を現時点で決済し、その解約資金を新たに貸し付けてくれるよう申し入れをしたのです。二行あった銀行のうち、一行は「そんな話は聞いたことがない」と、話をまともに聞いてもらえませんでした。
ところが、もう一行はきちんと話を聞いてくれ、事情を説明したところ、「本部と相談する」という方向に話を進めてくれたのです。
その後、同社の再建計画等を順次整備してゆく中、最終的にこの別の一行が決済に必要な1億2千万円を新たに手形貸付で同社に貸出すことを決めたのです。
そして、最初に相談した別の一行も、同調するかたちですべての為替デリバティブを決済し、その決済資金を同社に新たに貸し出してくれたのです。このように、数年前までは想像もできなかったような対応を最近の銀行は行ってくれるようになりました。
為替デリバティブの解約資金を銀行が融資する理由
一方で、今回ご紹介したケースでは、銀行が協力してくれたのには理由もあると判断されます。
具体的には、
- 同社への貸出残高が一行あたり数億円程度と比較的大きく、簡単には破綻させられなかったこと。
- 本業は比較的順調で、為替デリバティブ取引がなければ営業収支がプラスで推移していたこと。
- そもそも為替デリバティブを利用するようすすめたのは銀行であり、銀行としてもそれなりの「負い目」を感じていたこと。
です。以上の条件が相応にあてはまるケースにおいては、銀行はそれなりに対応してくれる可能性があると言えるでしょう。為替デリバティブに苦しんでいる会社で、上記のケースに近い会社は、一度、銀行に相談してみてはいかがでしょう。
特にあなたの会社が倒れてしまうと銀行が困るといったケースでは特に、十分に話は聞いてもらえると思います。
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