中小企業にとって未来の損益予測は「机上の空論」に過ぎないのか?
銀行から今後5年の損益を出してほしいと言われた場合
中小企業を経営するみなさまにとって、銀行等から「将来の損益の見込を教えて下さい」と依頼をされることは多いのではないかと思います。それは主に、損益計算書をベースに今後5年分の売上や原価、経費その他の各項目を数値で入れていくものが一般的でしょう。
最近では銀行側がその書式を渡し、中身を埋めていくようです。弊社にご相談にいらっしゃるお客様においても、銀行からの依頼を受けている・いないに関わらず、その作成が必要となっていることが多いのですが、その大半の方は
「将来のことがわからないのに、それをつくることなどできない」
「そんなものは机上の空論であり、やったところで何も変わらない」
と考えることで、作成が止まってしまう、もしくはあまり考えずに何となく記入して、とりあえず出してしまう、となっているように感じます。しかし、未来のことがわからないことと、その計画を立てられないことは、全く別のことです。
ただ銀行にとってみれば
将来のことがわからない
↓
返済ができるかどうか、わからない
↓
でもお金は貸して欲しい
と言われて、お金は貸せませんよね。しかし、今の世の中、3カ月先のことすらわからないことは事実です。
なぜ中小企業は将来の損益予測を立てる必要があるのか
では、なぜそれをわざわざやらなければならないのか。
- そもそも、未来予測というのは変動していくことが当然であり、予測→検証のプロセスを何回も繰り返していくことで徐々に、予測と実際との誤差を減らしていくものであり、
- その未来予測の変動に対応していくことが経営にとって重要であり、経営改善を行うべき項目になり得る
からです。例えば、一番予測が困難な「売上」について、もう少し具体的にいうと、現時点で想定される、会社の状況を構成する要素を項目別に分解し、それぞれの項目の変動を見越して、それをもう一度当てはめ、再構成する。
変動が有った場合には、その変動要因を分析して、さらに再構成することの繰り返しを行っていきます。ただこう言ってもなかなか難しいので、その具体例を次に書いていきます。ちなみに、予測の1割や2割の部分は違ってもよいのです。
悪い方にズレたとしても、その原因が分かり、対応ができるのか、別の手法によりその穴を埋められるのかを考え、実行に移せるのかが重要なのです。
未来の損益予測はどのようにして立てるのか
小売店の売上の一例を挙げてみますと、例えばこのように売上を分解できます。
潜在顧客数×見込顧客化率×来店率×購入率×購入単価=将来の売上
この式は、このように考えていくことができます。
1.潜在するお客様の数が「潜在顧客数」
2.潜在顧客数の内、チラシやホームページ等で見込顧客化した率を掛ければ「見込顧客数」が分かり、
3.見込顧客数と来店数の比率から来店率が分かり、
4.来店数と購入数の比率から購入率が分かり、
5.購入数に平均購入単価をかければ売上、となります。
6.また、リピート率が向上すれば、将来の売上をより多く確保できます。
例えば、チラシを配れば「見込顧客化率」や「来店率」を向上させられるのではないか。
例えば、店舗のレイアウトや導線を変えることで、購入率を向上させられないか。
例えば、お客様との接客手法を変えることで購入単価やリピート率を上げられないか。
あくまで例ではありますが、一つ一つの項目に対する取組を考えていくことになります。このようなことは、なんとなくみなさんやっているのではないでしょうか。
なんとなくやっていても果たして計測しているのか
しかし、今それぞれがどのくらいの比率で、今まで行ってきた施策によってどのくらいの変動が発生していて、どこが改善可能なのか、というところまでは意識していない方が多いのではないでしょうか?
重要なことは、1%の数値が2%になれば、それは1%の違いであっても売上への影響度は2倍、という目線を持つこと。
また上記の例で言えば「見込顧客化率」「来店率」「購入率」「購入単価」「リピート率」の5つがそれぞれ10%改善するだけで、1.1×1.1×1.1×1.1×1.1≒1.61、約1.6倍の売上になる、ということです。
それぞれの数値の妥当性は、一度計測して確定できるものではありません。中小企業の場合は計測できる数が大手企業より少ないとはいえ、
「より効果を上げるため、まず最初に手をつけるべきはどこなのか」
「やり方を変えてみた際に、どのように変動したか」
を知ることができる、という意味では同じことであり、これをできるだけ簡単に・正確にできるのかどうかがポイントになります。それぞれの数値を見出すことができれば、売上目標を出すことも、売上から逆算して、それぞれの数値目標を出すこともできます。
一つの数値を向上させる、ということを目標とすれば、そのために何をすれば達成可能か、という考え方から、元々は数値であった将来の目標を行動計画に落とし込むこともできます。
ここまでできれば、将来の目標は机上の空論などではなく、○○の行動ができれば、最終的に目標数値を達成できる、という本物の経営計画にまで持っていけるのです。資金繰りに追われてしまうと、このようなことができなくなってしまいがちですが、資金繰りを改善させるためには、最終的には収益力の改善が必須です。
資金繰りへの対応は早々に行い、このような形で売上→利益の改善策を図る時間と手間を確保することの方が、会社の復活により近づけることは明らかです。一度、売上の構造を分解し、項目別に計測することを考えてみてはいかがでしょうか。