全ての融資をまとめて一本化したい
全ての融資をまとめて一本化できるか?
毎月の銀行への返済負担が大きいと感じている経営者から、よくいただくご相談が、「今ある全ての借入を、一つの銀行で一本化したい。」というものです。これは、成功する企業は千社に1社ぐらいなのに、多くの経営者が幻想としていだいている方法なので、「まとめて一本化幻想」と呼んでもよいものでしょう。
例えば、ある企業の銀行からの借入が、次のとおりだとしましょう。
借入残高 月返済額 (単位:万円) A銀行 3,500 70 A銀行 1,800 60 A銀行 900 30 B銀行 2,400 80 B銀行 1,500 50 C銀行 1,900 60
毎月返済350万円の負担が大きいから、別の銀行で12,000万円、つまり1億2千万円を、5年返済で借り換えて、毎月返済が200万円となり、350万円から200万円へ返済負担を削減する、このようなことができるという「幻想」を、多くの経営者は抱いているのです。
あなたは、このようなことができるという「幻想」を思ったことはないでしょうか。
しかし、このような借り換えは、私が銀行員時代に融資を手がけた約900社の企業、資金繰りのコンサルティング会社である弊社でお受けしたご相談約4,000社の企業、で見てみても、1つも事例を見たことはありません。
それだけ、「今あるすべての借入を、一つの銀行で一本化したい。」というのは、幻想であって、現実はまず不可能、ということです。
なぜなら、銀行は「リスク分散」の考え方をとっているからです。10億円の融資を1社に行うより、5千万円の融資を20社に行いたい、というのが銀行の思想です。ある企業に対する融資を、一つの銀行で抱えてしまうのは、銀行としては大変なリスクであります。
よほど優良な企業で、よほど十分な担保があれば、このような借換えを行う銀行はあるかもしれませんが。そこで、可能性は千社に1社、としておきます。
全ての融資をまとめて一本化したいという考え方の別の問題点
また、この幻想は幻想でしかないのですが、このようなことを考えてしまう経営者の、考え方に潜む問題点があります。次のとおりです。
- 返済負担が大きく、返済が進むにつれて預金残高が減少しているなら、新規融資を受けて預金残高を増やすべき。新規融資を受けられる企業で あれば、融資を受けて融資残高を増やして預金を増やす方が正解。
- 新規融資が受けられず、返済負担が大きいというのであれば、借換えではなくリスケジュール、つまり返済金額を0円近くにまで抑える交渉を銀行と行うべき。上記例で言えば、350万円から200万円に返済金額を減少しても、新規融資が受けられない中で200万円の返済金額は、返済金額が減少したといっても、いずれ資金不足を招いてしまう。
- 取引銀行数は、多ければ多いほど良い。銀行を少なくするのは、自ら自分の首を絞めるようなもの。
このような問題点も、「まとめて一本化」の考え方には潜んでいます。
返済負担が大きく感じるのであれば、新規融資が受けられる企業であれば新規融資を受ける(可能であれば、1本や2本の既存融資の借換えを合わせた増額融資を受けるとよいでしょう。それぐらいの借換えであれば考えてくれる銀行は多いです。)。
新規融資が受けられない企業であれば、リスケジュールを行って返済金額を0円近くにする。これが、銀行取引のセオリーです。全部の融資をまとめて一本化、というのは幻想でしかないので、そのようなことを思っている経営者の方は、その思いを一切捨ててください。
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