モラトリアム法案の私見
最近、セミナーを多く行うようになったこともあり、資金調達の正確な知識を今一度確認しておきたいと思い、資金調達に関する本を買って読むことが多くあります。その中で、よく見受けられる資金調達方法があるのですが、こんな方法、中小企業経営者がうのみにしたらどうするの?というものが多くあります。
その例は
- 少人数私募債
- DDS
- シンジケートローン
- コミットメントライン
- ベンチャーキャピタル
これらは、全て資金調達の方法ですが、私たちに今までご相談にこられている中小企業、約3千社を見てみると、いずれも1,000社に1社~3社ぐらいしか発生していない、資金調達方法です。
そのような、とても低い確率しかない資金調達方法が、中小企業向けの資金調達本にどうどうと掲載されていますが、それを見た経営者の多くが、「このような資金調達方法があるのか、どれ、やってみよう。」と思って、銀行員などから軽くあしらわれるシーンが、全国で多く起こっているのではないでしょうか。
これは、信用保証協会の保証制度や、日本政策金融公庫の融資制度においても同じような現象が見られるのではないでしょうか。
これらの機関のパンフレットには、いろいろな融資制度が紹介されていて、あたかも中小企業には、多くの選択肢があるように、見受けられます。
しかし、大半の中小企業においては、使えない制度ばかりです。現在、モラトリアム法案の話題を多く聞きますが、これは政府が保証すれば、既存融資の条件変更、つまりリスケジュールをやってくれる、というものです。
私はポイントを、「政府の保証」に見ています。政府の保証ということは、実務的には信用保証協会を使って保証、ということになると思われますが、既存の融資で、しかもリスケジュールをしようという融資を保証する、というわけですから、保証協会も保証するかどうかの審査は、慎重に行うことになると思われます。
10年前の、金融安定化特別保証制度では、本当に簡単に、保証協会の保証がつき、融資が実行されました。審査が簡単だったので、当然、多くの貸倒れが発生し、保証協会は多くの代位弁済を行うことになりました。
その教訓から、1年前の緊急保証制度を見てみても分かるように、一時的に保証制度ができても、その審査は慎重に行われています。
今回のモラトリアム法案が実行されることとなっても、保証協会が保証するという点では共通なのですから、同じように審査は慎重になることでしょう。ましてや、既存の融資で、かつリスケジュールを行おうとしている融資ですから、保証協会の審査は厳しいものになると思われます。
よほど将来に見込みがあり、返済再開が確実だ、と思わせられるような経営改善計画書の作成と説明が必要になるのではないでしょうか。とすると、このモラトリアム法案が実行になっても、その「実効性」という意味で、あまり期待しない方がよいような気がします。
最近、時々「モラトリアム法案が実行されるとリスケジュールできそうだからそれまでリスケジュールを待つ」という経営者を見かけるのですが、これは愚の骨頂です。
リスケジュールをやらなければならないほど、資金調達もできず、資金繰りが困難となっているのであれば、こんな法案が実行となることを待つことなく、すぐに銀行と交渉してリスケジュールに動くべきです。
毎月の返済金額を考えてください。モラトリアム法案が実行となるまで、その返済を続けていかなければならないし、それが実行となっても実際に保証協会の保証がついてリスケジュールが実行になるとは限らないのですよ。
こんな法案に頼らなくたって、自らリスケジュールの交渉を進めることができるのですから、すぐに動くべきです。資金繰りは待ったなしです。早く動かないと、手遅れになります。
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