株式上場が「夢」である経営者の落とし穴
私の会社には、全国の中小企業経営者から、資金繰りの相談をいただきます。ご相談いただく企業の中には、将来「株式を上場させたい!」と意気込んでいる、もしくは以前意気込んでいた企業も時々こられます。
そのような企業からのご相談を受けていて、私が考えてしまうのは、株式を上場させたい経営者が陥りやすい落とし穴です。創業した経営者にとって、確かに株式上場は「夢」であります。
しかし株式上場が「目的」になってしまうと、それが会社経営をぐらつかせてしまうことにもなりかねないのです。株式上場を目指した企業が、どうやって落とし穴に陥ってしまい、倒産の危機を招いてしまうのか。
主に、次のパターンがあります。
- 株式上場を目指して監査法人を入れたら、決算書の適正化をはかるため、決算書で一気に過去のウミを出されて(粉飾をやっていた、適切な決算をやっていなかったなど)、決算書の内容が一気に悪くなり、その結果銀行からの融資も受けられなくなってしまい、資金繰りに詰まってしまった。
- 株式上場できる企業は基本的に成長性が期待できる企業ですが、株式上場を目指した経営者は「売上至上主義」に陥ってしまい、利益がどうであるかを気にしないで売上を無理やり大きくしようとし、その結果、売上は増えているものの大きな赤字を出し、苦境に陥ってしまった。(株式上場を目指す企業にはベンチャーキャピタルからの出資が入ることが多いですが、ベンチャーキャピタルは株式上場益で収益を上げているため、早く上場させようと、出資先の企業に売上拡大を迫ることが多いです。そうなると経営者は焦ってしまい、無理な売上拡大に走ってしまいます。)
- 出資を受けているベンチャーキャピタルから株式上場に向けた内部体制(上場準備室など)を作るように言われ、売上がまだ大きくないにも関わらず、大幅な人件費増加を招いて赤字になってしまった。
など、株式上場を目指した結果、逆に倒産の危機に陥ってしまうケースは、私たちにご相談にこられる企業の中でも、本当に多く目にします。
このような状態に陥ってしまった企業は、経営の基本に立ち返り、早期に黒字化対策をはかり、いっぽう銀行から融資を受けられないのですから逆に銀行に返済条件変更(リスケジュール)交渉をはかって毎月の資金流出を抑え、資金繰りが安定するようにして会社の立て直しをはかっていくしかありません。
しかし、このような状態に陥ってしまった企業の経営者は、少し前までは株式上場を目指して意気込んでいたものが、全く逆になってしまうのですから、気持ちの転換をはかることは、分かっていたとしてもなかなかつらいものがあるでしょう。
しかし、いったんここは会社の立て直しに力を入れて、また体制を整えてから再度、株式上場を目指してもよいのではないでしょうか。過去に銀行でリスケジュールを行った経験があっても、それが将来、株式上場を不可能にすることなりません。現在株式上場している企業が、過去にリスケジュールを行っていたケースは多くあります。
株式上場に焦る必要はありません。それよりも会社をつぶさないことが大事です。
会社の立て直しに3年かかるとしても、その3年の長さって大きなダメージですか?
現実的に、今の状態では株式上場は無理な状況に陥っているのです。ただ残念なのは、このような状況の経営者の中には、それでも一発逆転策がある、と思いこむ人もいます。
銀行から融資を受けられない、しかしリスケジュールもしたくないものですから、それならと出資者を募って資金繰りをしのごうとしますが、赤字が出続けている企業に出資する企業はありませんから、その間にも赤字垂れ流し+無理な返済により資金は流出し続けます。
そして、破綻、を迎えてしまいます。それよりも、今はじっくり会社を立て直して、近い将来、また株式上場に向けて突き進んだらよいではないでしょうか。
株式上場は、創業経営者にとって「夢」です。しかし株式上場を第一の目的にしてしまうと、足元が固まっていないまま、ぐらついて一気に経営危機に陥ってしまうケースが多くあります。
売上拡大、拡大にまい進するよりも、着実に利益を上げていきながら、一方で内部体制を固めていきながら、ゆっくりと株式上場を目指したらよいではないでしょうか。また実際にそうやって経営危機に陥ってしまっている企業であれば、今は会社の立て直し時期として取組み、また近い将来、株式上場を目指してはいかがでしょうか。
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